生物のかたち…もう一つの『Art Forms in Nature』(2)2019年04月12日 18時44分40秒

(前回のつづき)

とはいえ、ヘッケルのオリジナル初版は結構な値段がするので(さっき見たら、下は30万円から上は60万円ぐらいの感じでした)、妥協も交えて私が手にしたのは、1914年()に出た「簡約版(Kleine Ausgabe)」というやつです。



(版元は初版と同じライプツィヒのBibliographisches Institute)


これまたポートフォリオ形式で、中の図版はバラになっています。この辺がささやかなオリジナル感。ただし、100図を収めた初版に対して、こちらは30図しか含まれません。しかも、図版が一部差し替えられています。



第1図~5図はオリジナルに含まれない“地学の美”に差し変わっています。いずれも、同じ出版社が出した『マイヤース百科事典』からの転用です。


この色鮮やかな甲虫図(↑右)や、有色人種の図(↓)もオリジナルにはなくて、たぶん『マイヤース百科事典』からの転用。


…ということは、初版と共通するのは30図中23図のみで、この辺をどう評価するかですが、見ようによって、簡約版は初版よりも一層雄大な構想を示しているとも言えます。何せ、動・植・鉱物の三界に天文・地文現象、さらに我ら人類も加えて、文字通り全自然界の驚異を通覧しようというのですから。

ただ、いかんせん30枚の図版でそれを実現するのは無理で、これは明らかに企画倒れです。まあ、ここは意気に感じて、これはこれで良しとしましょう。ともあれ、この図版の向こうに広がるベル・エポック期の世界に思いをはせ、往事の人々の驚きを追体験できれば、無駄に力んだ目的は達せられるのです。


(この項、おまけとしてもう1回つづく)


)ウィキペディアには「本書は1924年に第2版が出ているが、この中にはたった30枚の絵しか収録されていない」とありますが、実際には上述のように、1924年版に先行して1914年版が出ています。

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