質素な定規セットと「時代」の気分2015年10月04日 13時40分11秒

おそらく1930~40年代にさかのぼるであろう、古い児童用の定規セット。
イギリスの売り手は、これをお父さんの遺品から見つけたそうです。


箱には少年の後姿と、「The “Pupil’s Own”」「Complete and Accurate」という文字。
前者がちょっと訳しにくいですが、「僕らの製図セット」「正確無比」といったところでしょう。訳はともかく、このクォーテーションマークに込められた気持ち―それを手にした子どものプライドと満足感―は、たいへんよく分かる気がします。




古びた金属の味わい。


この魚の定規(?)は、いったい何に使うんでしょうか。

   ★

8月から9月にかけてブログの更新を休んでいた時、「自分にとってのノスタルジーとは何だろう?」と考えていました。そして、そのときの気分にしっくり合ったのが、このセットでした。


それが何故か…というのは、曰く言い難いのですが、こういう質素な―あえて言えば貧し気な―風情に、私はひどく弱いところがあります。そこには一種の自己憐憫の情がまじっている気がするんですが、こういうのを前にすると、何だかいじらしいような、無性に涙ぐまれるような気分になります。

そこには、かつての自分の「貧」が、影を落としているのでしょう(まあ、今も貧しいんですが、子供の頃はもっと切実でした)。私が21世紀の規範から外れて、不要なモノを買い続けるのは、そこに慢性的な飢餓感があるせいだと思います。

とはいえ、貧しさの一方で、当時の自分が、とても充実していたのも確かです。
子供時代の自分が、そうとはっきり意識していたわけではありませんが、やはりあれも日本が右肩上がりだったからこその、一種の「時代の気分」だったのかもしれません。

   ★

ところで、この定規が届いた時、余りに埃まみれだったので、ちょっと水洗いしたんですが、手を滑らせて取り落としたら、三角定規がストンと床に刺さり、そのまま直立。思わず総毛立ちました。


油断していると危険きわまりないですが、昔の子どもだったら、喜んで手裏剣遊びの道具にしたかも。

コメント

_ sayu ― 2015年10月05日 07時06分38秒

正確無比、が手に入れられる。みたいな感覚はたまらないですね。
プリズムとかレンズとか光学品も子どもの頃そういう感覚を覚えました
けど、製図用品は妄想の『後押し力』の広がりが強い気がします。
魚型は一種の雲形定規かな?と思いました。

_ zam20f1 ― 2015年10月05日 07時22分26秒

この定木セット、金属は何で出来ているのでしょうか。アルミだろうなぁと思って読んでいたら、床に刺さったという所で、アルミではなさそうという気分になりました。
いまではプラスチック製が普通ですが、プラスチックが使えるようになる前は、日本では木製のものも使われていた(http://dali21.exblog.jp/17933716/)ようですが、このあたりも、お国柄の違いがあるようですね。

_ 玉青 ― 2015年10月05日 21時32分19秒

〇sayuさま

あ、偶然ながら今日はレンズの記事です。
定規とレンズはジオメトリカルといいますか、直線と曲線が織り成す硬質な感覚という点で、たしかに共通するものがありますね。
(雲形定規に思わず膝を打ちました。なるほど、あの魚体には様々な曲線が凝縮しているのですね。)

〇zam20f1さま

この金属は私も気になったのですが、みなピタッと磁石にくっつくので、基本は鉄ですね。でも赤さびも出てないし、ちょっと混ぜ物をしたスチールの一種のようです。結構重さがあるので、モノとしての存在感があります。

三角定規は、私は最初からプラスチックでしたが、父親の世代になると、何せ金属供出を経験した世代時代ですから、間違いなく木製だったでしょう。お国柄もありますが、いかんせん国力の差も大きかったかもしれませんね。

_ 蛍以下 ― 2015年10月06日 02時30分01秒

「○○セット」「ノスタルジー」とくれば、私の場合は『昆虫採集セット』になります。御存知でしょうか?

_ S.U ― 2015年10月06日 08時34分12秒

磁石にくっつくならブリキでしょうか。この黒っぽくてところどころ銀色に光る輝きは錫のように思います。

 おっしゃる通り、我々が中学校の頃は、悪ガキどもがブリキ板を切って手裏剣にしていました。学校にも持ってきていましたが、幸い教室で投げる者はおらず、どちらかというと工芸美術品として、形や磨き具合を見せ合って楽しんでいたように思います。悪ガキにしては、なかなか雅な趣味だと思いました。(でも、おそらく放課後には、樹木相手に実戦の演習をしていたものと思います)

_ 玉青 ― 2015年10月07日 07時14分28秒

〇蛍以下さま

私は「昆虫少年」を気取っていたので、あの注射器入りのセットとの付き合いは低学年止まりですね。当時の昆虫採集の解説書は、口をそろえて、あの注射器による殺虫と防腐の無効性を述べ立てていましたから…。
とはいえ、あれはもう私らの世代にとっては、集合的記憶みたいなもので、懐かしさという点では、この上もなく懐かしい品です。

〇S.Uさま

>ブリキ

後のスチール製定規のイメージで、てっきりそれと思ったんですが、安価な品だったらブリキかもしれませんね。
それにしても、ブリキ板の手裏剣とは、いかにも昭和少年風俗ですねえ。(残念ながら、私自身は身近で見聞きしたことがありません。)

_ 蛍以下 ― 2015年10月09日 14時45分06秒

玉青様

意識高い系昆虫少年だったんですね^^
私の友人など、「あの緑の液体は、死んだ昆虫を生き返らせる薬だ」などといってました。

_ 玉青 ― 2015年10月10日 10時08分26秒

あはは。あの薬は「殺す」効果があまりにも弱かったので、不審に思った子供達の間からそういう伝説が自然発生したのかもしれませんね。

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