タルホ的なるもの…月、大いにくつろぐ ― 2016年05月27日 20時33分04秒
たらふく飲み食いした後で、満足げに葉巻をくゆらす月。
(1900年頃のシガーラベル)
ブランド名の「Maaneklips」は英語でいう「Moon eclipse」、すなわち「月食」の意味でしょうが(注)、どうも月食どころか、今や丸々肥え太って、憎らしいほどです。
それにしても、何と鮮やかな石版でしょう。
何度も刷りを重ねた色版、美しい金彩銀彩、それにエンボス加工。
第1次大戦前のドイツが誇った石版技術の質の高さをうかがうに足る品です。
★
ときに、なぜこれほど精巧な作が求められたのか?
そこにはメーカーの美意識ばかりでなく、あるはっきりとした理由があったことを、ウィキペディア・「葉巻たばこ」(http://tinyurl.com/zp6p6ul)のページを読んで知りました。
そこにはメーカーの美意識ばかりでなく、あるはっきりとした理由があったことを、ウィキペディア・「葉巻たばこ」(http://tinyurl.com/zp6p6ul)のページを読んで知りました。
その理由とは、ずばり「偽造防止」。
葉巻に高級ブランドが確立すると、それを模造して一儲け企む業者も出てくるわけで、それを防ぐために、どんどん印刷精度が高まっていった…ということのようです。
葉巻に高級ブランドが確立すると、それを模造して一儲け企む業者も出てくるわけで、それを防ぐために、どんどん印刷精度が高まっていった…ということのようです。
以下はウィキペディアからの引用。
「シガーラベル」とは葉巻を封入した箱の裏蓋を封じた約15×22センチの紙である。当初は簡単な図柄だったが、模造品対策からキューバシガーの箱では20色もの多色刷り石版印刷や箔押し加工が行われていた。1920年代以降は写真製版印刷のラベルが用いられている。写真製版導入前の物は美術的な評価が高く、現在では石版印刷の再現が難しいことから骨董品としても珍重されている。
上の月食ラベルを見ても、この記述の正しさは素直に納得できます。
★
さらに一本一本の葉巻に巻かれた「シガーバンド」にも、こまやかな神経が行き届いています。
これを「小芸術」と言わずして何と言いましょう。
三日月を偏愛する足穂氏も、この黒と金の衣装をまとったフルムーン氏には、合格点を与えてくれるはず。
三日月を偏愛する足穂氏も、この黒と金の衣装をまとったフルムーン氏には、合格点を与えてくれるはず。
【注: 些末なメモ】
シガーラベルは昔からコレクターが多いので、この品も簡単に正体が分かるだろうと思いきや、意外にそうでもありませんでした。
そもそも、ブランド名の「Maaneklips」からして謎で、上で述べたように、何となく英語の「Moon eclipse」(月食)の意と察しがつくし、風車の絵からしてオランダ語っぽいと思いますが、オランダ語の正書法は(Google曰く)「Maan eclips」だそうです。
シガーバンドに見える「Stanislas Gheel」というのがメーカー名だと思いますが、「Gheel」は、ベルギーの町「Geel(ヘール)」の別綴で、どうもこれはオランダではなく、ベルギーのメーカーのようです。そして、いわゆるオランダ語と、ベルギーで使われるオランダ語(フラマン語)とでは、またいろいろ違うので、「Maaneklips」というスペルは、そのせいかもしれません(違うかもしれません)。
コメント
_ S.U ― 2016年05月28日 08時05分38秒
_ 玉青 ― 2016年05月28日 15時23分43秒
あ、なるほど。
どこが月食かと思ったら、この赤ら顔がすなわち月食なのですね。
そう言われてみれば、目元までどんより赤濁りしているのも、それっぽいですね。
Maaneklipsの謎解きもありがとうございました。オランダ語は、表記の揺れがかなり最近まであったのですね(英語も18世紀までだいぶ揺れていましたが、ジョンソン博士の英語辞書以来、落ち着いたと聞きました)。それならば、別にベルギーを持ち出さなくても、単純に昔はこういう書き方もした…ということで、説明がつくかもしれません。
ときにシガーラベルですが、刷られているのは普通の紙(光沢のある厚手の上質紙)です。そして、箱に糊付けされているラベルを上手にはがしたものが、今もコレクションの対象として売買されているというわけです。値段は本当にピンキリですが、高いものだと1枚10万円以上なんていうのもあるようです。
どこが月食かと思ったら、この赤ら顔がすなわち月食なのですね。
そう言われてみれば、目元までどんより赤濁りしているのも、それっぽいですね。
Maaneklipsの謎解きもありがとうございました。オランダ語は、表記の揺れがかなり最近まであったのですね(英語も18世紀までだいぶ揺れていましたが、ジョンソン博士の英語辞書以来、落ち着いたと聞きました)。それならば、別にベルギーを持ち出さなくても、単純に昔はこういう書き方もした…ということで、説明がつくかもしれません。
ときにシガーラベルですが、刷られているのは普通の紙(光沢のある厚手の上質紙)です。そして、箱に糊付けされているラベルを上手にはがしたものが、今もコレクションの対象として売買されているというわけです。値段は本当にピンキリですが、高いものだと1枚10万円以上なんていうのもあるようです。
_ S.U ― 2016年05月29日 07時39分05秒
>シガーラベル~高いものだと1枚10万円
ご教示ありがとうございました。祖父さんが若い頃ふかしていて溜めこんだ物が土蔵からごっそり、とかいうことがあると嬉しいのですが、そんなことはあり得ないです。
>赤ら顔
かつての東洋では、日食、月食は、日月の病気状態であると考えられ、公務員は(天文観測担当以外は)休みとなり、一般人は外に出ないことが推奨されたそうで、口に入れる葉巻のパッケージデザインとしては少なからず違和感があるのですが、ヨーロッパではそういう悪いイメージはもともと無しということなのでしょう。
>ベルギーで標準語になっている「オランダ語」
手元のオランダ語の教本、辞書を見てみましたが、ベルギー、オランダの双方に方言や発音の違いがあるのは当然として、教本、辞書で学ぶ内容としてはオランダとベルギーの区別については何ら触れられてなかったので、標準語としての「オランダ語」には蘭白の差はないようです。Wikipediaによると、少なくとも1980年以降は両国で「オランダ語連合」を形成して統一的にやっているようです。
ご教示ありがとうございました。祖父さんが若い頃ふかしていて溜めこんだ物が土蔵からごっそり、とかいうことがあると嬉しいのですが、そんなことはあり得ないです。
>赤ら顔
かつての東洋では、日食、月食は、日月の病気状態であると考えられ、公務員は(天文観測担当以外は)休みとなり、一般人は外に出ないことが推奨されたそうで、口に入れる葉巻のパッケージデザインとしては少なからず違和感があるのですが、ヨーロッパではそういう悪いイメージはもともと無しということなのでしょう。
>ベルギーで標準語になっている「オランダ語」
手元のオランダ語の教本、辞書を見てみましたが、ベルギー、オランダの双方に方言や発音の違いがあるのは当然として、教本、辞書で学ぶ内容としてはオランダとベルギーの区別については何ら触れられてなかったので、標準語としての「オランダ語」には蘭白の差はないようです。Wikipediaによると、少なくとも1980年以降は両国で「オランダ語連合」を形成して統一的にやっているようです。
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こういう発想は初めて見た思いがして度肝を抜かれました。同じ満月でも"full"に光っている月と皆既食ではまったくイメージが違うということに着目した例は他にもあるのでしょうか。これはとても貴重だと思います。いっぽう、有り体に言えば皆既の月は酒が入っているというイメージがあちこちにあってもよいような気もします。
いつもいつも材質の確認で申し訳ありませんが、このシガーラベルというのは、普通の紙に印刷されていて、それが葉巻の箱(木、金属、厚手の紙などしっかりした材料で作られている)に貼り付けられているということなのでしょうか。そして、それを箱から剥がして紙だけ取引されているということでしょうか。
Wikipediaほかによりますと現代的なオランダ語の正書法は1946年に作られたもので、法則化に相当人工的臭が強いもののようです。逆に言うと、それ以前はずっと緩くて、あちこちで勝手な書き方がされていて、cがkでも、gがghでもchでも何でも良かったのだと思います(もちろん、地方やコミュニティの違いによっておおむね決まっていたとは想像しますが)。また、Maan と eklipsの間を詰めるのはドイツ語風で、これはかつてはしばしば詰められていたものが、オランダ語正書法によって、ドイツ語と差別化したものと想像します。種々の点で英語に近くなっている印象ですが、これが人為的なものかもともとの方言の特徴なのかはわかりません。以上、私の勝手な推測ですので、話半分未満でお願いします。ベルギーで標準語になっている「オランダ語」についてはまったくわかりませんので、それについては言及していないということでお願いします。