月は球体なり2019年05月12日 09時28分37秒

一昨日につづき、今日も月のステレオ写真です。
ただし、その表情というか、意図するものはだいぶ違います。


前回の写真に漂うのは、ミスティックな月光と夜空の詩情でした。
今回の写真にみなぎるのは、望遠鏡が捉えた犀利な科学のロマンです。
しかし、意図こそ違え、そこにロマンのベールがかかっている点で、両者はともに天文趣味史を彩る品です。


月のステレオ写真もいろいろですが、自分としては今日の1枚がベスト。


写真も実にくっきりとしているし、何といっても地紙の鳶色と金文字のコントラストが、奥ゆかしくも鮮やかです。

発行元は、バーモント州ノースベニントンに本拠を置いた、ステレオ写真の老舗 H.C. White社。(余談ですが、こちらのページによると、1915年にホワイト社が廃業した際、同社保有のネガを買い取ったのが、ステレオ写真最大手のキーストーン社で、キーストーン社の製品のうち、品番がWで始まるものは、ホワイト社由来のものの由。)


この下弦の月を撮ったのが誰かは説明がありませんが、1905年、あるいはそのちょっと前に、1か月のインターバルを置いて、ほぼ同じ月相の月を撮影して並べたものです。


周縁部に注目すると、月の秤動(首振り運動)によって、嵐の大洋やグリマルディ・クレーターの位置が、明瞭に動いていることが分かります。これをビュワーで見ると、はっきりと球状に見えるのが面白く、そこに100年前の科学のロマンがほとばしるのです。