はやぶさハウマッチ…モノの値段とは? ― 2010年06月25日 16時23分43秒
天文古玩趣味は、あくまでも俗界を離れた清遊であってほしいのですが、そうは言ってもモノの売り買いが絡むことなので、お金の話題とスパッと縁を切ることはできません。
たまたま最近、はやぶさの帰還カプセルが「なんでも鑑定団」に出されたら、果たしていくらになるか?という話題を、「霞ヶ浦天体観測隊」(by かすてんさん)で読みました。
■霞ヶ浦天体観測隊: はやぶさカプセル 展示されるらしい
http://kasuten.blog81.fc2.com/blog-entry-1366.html
ジメッとした空をにらみながら、今日はモノの値段ということを考えてみます。
★
モノの値段がどう決まるのか?という設問から、私がすぐ連想するものがあります。
それは、むかし読んだ安部公房の戯曲です(作品名は忘れました)。
ある男が「物の値段は、材料費と手間賃で決まる」と言ったら、別の男だか女だかが、「じゃあ、自分が電信柱ほどの丸太を削って爪楊枝を作ったら、あんたはその材料費と手間賃を出してくれるのか?」と言ってやり込めるシーンがあって、子供心に「なるほど!」と頷いた記憶があります。要するに、後者は「お前さんはニーズという要素を見落としているよ」ということを指摘したのでした。
特に、ここで問題にするような一点ものの「お宝」の場合、コストから売価を割り出すというのはほとんど意味がなく、ニーズが決定的に重要な役割を果たすのでしょう。
ただ、ニーズ万能だとすると、それもまた変なことになります。
たとえば、鑑定団には、ときどきコレクターが自慢のお宝を鑑定に出す場面があります。で、コレクターは往々にしてオークションで品物を入手するわけですが、鑑定士は鑑定士で、過去のオークションレコードを参考にして値付けをしています。これって明らかにトートロジーじゃないでしょうか。
もし「このアンティークは、過去のオークションで100万円で落札された実績があるから、100万円の値打ちがあるのだ」…そんな言い方が通用するならば、オークションで損をする人はいない理屈になります。いくらで落札しても、それが根拠になって、同じだけの価値が生まれるわけですから。まるで錬金術のようですね。
もちろん、実際にはそんな馬鹿な話はなくて、そこには1個のオークションレコードだけで容易に左右されない、相場なり適正価格なりが自ずとあって、それを決めるのが「マーケット」であり、マーケットの声を代弁するのが目利き、すなわち鑑定士なのでしょう。
★
ではお宝を見せると、その値段をポンとはじいてくれる鑑定士の頭の中では、いったい何が行われているのでしょう?
突き詰めて言えば、「これぐらいの値段だったら、買い手はすぐに現われますよ」という、お馴染みのセリフに集約されるように、彼らが頭の中でカチカチやっているのは、人間の買物行動に関する一種のシミュレーションであり、過去の売買記録は、そのシミュレーション・プログラムが参照するデータの1つに過ぎません。
要するに、鑑定士は値付けをすることで、人間の<行動>を予測しているのであり、きわめて状況が限定されるとはいえ、その営みは立派な心理学や行動科学の実践なわけです。鑑定士が向き合っているのは、モノそのものではなく、実はその向こうにいる人間なのだ…ということに、この文章を書きながら気付きました。
相手は人間ですから、どのタイミングで、どこの市場に、どういう形で出すかによって、モノの値段は大きく違ってくるでしょう。モノそれ自体よりも、それの置かれたシチュエーションの方が大事な場合だって、いくらでもあると思います。もちろん「鑑定団」に出てくる鑑定士の方はプロなので、そんなことは百も承知の上で、これは娯楽番組だと割り切って、分かりやすい値段をポンと付けて、番組のスムーズな進行を助けているのでしょう。
★
さて、話をはやぶさのカプセルに戻して、私の人間観を交えたオークション予想。
この場合、購入するのは主に博物館や企業になるので、一般の個人コレクターでは対抗できないレベルの価格になるのは必然です。まずスタート価格は6千万円。競り値はあっという間に1億5千万円を超え、この時点で中小の自治体立博物館は手が出なくなり、あとはいくつかの大規模博物館と、利ざや狙いの機関投資家との戦いになります。
活発な競り合いの末、10億円の大台を超えたところで入札者は2者に絞られ、周囲は固唾をのんでその結果を見守ります。28億円のあたりで値段が小動きになり、そろそろ決まるか…と思われたところに、場内の入札専用電話が鳴り、「32億円!」の声。会場にいた2人の入札者が肩をすくめると、主催者はハンマーを小気味よく振り下ろし、「落札おめでとう!」。場内に鳴り響く拍手・拍手・拍手。
代理人を通じて発表された、匿名の落札者のコメント。
「素晴らしい買い物をさせてもらった。このカプセルは、30万年に及ぶ人類の叡智の結晶であり、その内部には強いコスミックな波動を感じる。まさに人類史上無比の宝だ。」
なお、消息筋によれば、落札者は某宗教系団体とのこと。
ちなみにJAXAは、落札代金の全額をはやぶさ後継機の開発に充てることを既に言明している。
たまたま最近、はやぶさの帰還カプセルが「なんでも鑑定団」に出されたら、果たしていくらになるか?という話題を、「霞ヶ浦天体観測隊」(by かすてんさん)で読みました。
■霞ヶ浦天体観測隊: はやぶさカプセル 展示されるらしい
http://kasuten.blog81.fc2.com/blog-entry-1366.html
ジメッとした空をにらみながら、今日はモノの値段ということを考えてみます。
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モノの値段がどう決まるのか?という設問から、私がすぐ連想するものがあります。
それは、むかし読んだ安部公房の戯曲です(作品名は忘れました)。
ある男が「物の値段は、材料費と手間賃で決まる」と言ったら、別の男だか女だかが、「じゃあ、自分が電信柱ほどの丸太を削って爪楊枝を作ったら、あんたはその材料費と手間賃を出してくれるのか?」と言ってやり込めるシーンがあって、子供心に「なるほど!」と頷いた記憶があります。要するに、後者は「お前さんはニーズという要素を見落としているよ」ということを指摘したのでした。
特に、ここで問題にするような一点ものの「お宝」の場合、コストから売価を割り出すというのはほとんど意味がなく、ニーズが決定的に重要な役割を果たすのでしょう。
ただ、ニーズ万能だとすると、それもまた変なことになります。
たとえば、鑑定団には、ときどきコレクターが自慢のお宝を鑑定に出す場面があります。で、コレクターは往々にしてオークションで品物を入手するわけですが、鑑定士は鑑定士で、過去のオークションレコードを参考にして値付けをしています。これって明らかにトートロジーじゃないでしょうか。
もし「このアンティークは、過去のオークションで100万円で落札された実績があるから、100万円の値打ちがあるのだ」…そんな言い方が通用するならば、オークションで損をする人はいない理屈になります。いくらで落札しても、それが根拠になって、同じだけの価値が生まれるわけですから。まるで錬金術のようですね。
もちろん、実際にはそんな馬鹿な話はなくて、そこには1個のオークションレコードだけで容易に左右されない、相場なり適正価格なりが自ずとあって、それを決めるのが「マーケット」であり、マーケットの声を代弁するのが目利き、すなわち鑑定士なのでしょう。
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ではお宝を見せると、その値段をポンとはじいてくれる鑑定士の頭の中では、いったい何が行われているのでしょう?
突き詰めて言えば、「これぐらいの値段だったら、買い手はすぐに現われますよ」という、お馴染みのセリフに集約されるように、彼らが頭の中でカチカチやっているのは、人間の買物行動に関する一種のシミュレーションであり、過去の売買記録は、そのシミュレーション・プログラムが参照するデータの1つに過ぎません。
要するに、鑑定士は値付けをすることで、人間の<行動>を予測しているのであり、きわめて状況が限定されるとはいえ、その営みは立派な心理学や行動科学の実践なわけです。鑑定士が向き合っているのは、モノそのものではなく、実はその向こうにいる人間なのだ…ということに、この文章を書きながら気付きました。
相手は人間ですから、どのタイミングで、どこの市場に、どういう形で出すかによって、モノの値段は大きく違ってくるでしょう。モノそれ自体よりも、それの置かれたシチュエーションの方が大事な場合だって、いくらでもあると思います。もちろん「鑑定団」に出てくる鑑定士の方はプロなので、そんなことは百も承知の上で、これは娯楽番組だと割り切って、分かりやすい値段をポンと付けて、番組のスムーズな進行を助けているのでしょう。
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さて、話をはやぶさのカプセルに戻して、私の人間観を交えたオークション予想。
この場合、購入するのは主に博物館や企業になるので、一般の個人コレクターでは対抗できないレベルの価格になるのは必然です。まずスタート価格は6千万円。競り値はあっという間に1億5千万円を超え、この時点で中小の自治体立博物館は手が出なくなり、あとはいくつかの大規模博物館と、利ざや狙いの機関投資家との戦いになります。
活発な競り合いの末、10億円の大台を超えたところで入札者は2者に絞られ、周囲は固唾をのんでその結果を見守ります。28億円のあたりで値段が小動きになり、そろそろ決まるか…と思われたところに、場内の入札専用電話が鳴り、「32億円!」の声。会場にいた2人の入札者が肩をすくめると、主催者はハンマーを小気味よく振り下ろし、「落札おめでとう!」。場内に鳴り響く拍手・拍手・拍手。
代理人を通じて発表された、匿名の落札者のコメント。
「素晴らしい買い物をさせてもらった。このカプセルは、30万年に及ぶ人類の叡智の結晶であり、その内部には強いコスミックな波動を感じる。まさに人類史上無比の宝だ。」
なお、消息筋によれば、落札者は某宗教系団体とのこと。
ちなみにJAXAは、落札代金の全額をはやぶさ後継機の開発に充てることを既に言明している。
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