二廃人、カレーを談ず2013年04月09日 21時39分43秒

「よお、どうしたい。万緑萌える季節だってのに、冬ざれのような顔をして。」
「やあ、キミか。余計なお世話…と言いたいところだけど、キミなりの心遣い、痛み入るよ。」

「まあ、俺が来るときは、たいていお前さんが煮詰まってるときだからな。今日もきっとそうなんだろう?」
「うん、ぐつぐつよく煮えてるよ。」
「何が煮えた?」
「カレー…かな。どうもね、近頃自分のブログがカレーのように思えてね。」
「おや、カレーと来たか。俺は嫌いじゃないぜ。一杯ご馳走してくれんか。」

「まあ、まじめに聞いて欲しいんだが、最近何を書いても、変わり映えしない気がしてね。要するにマンネリというか。」
「ネタ切れか。」
「いや、そうじゃない。ネタはいくらでもあるんだ。でも味付けがね…。世の中に食材と名の付くものは無限にあるけど、それをカレーにぶち込んだか らといってさ、別の料理になるわけじゃないだろう?たとえば豆ひとつとったって、ひよこ豆、レンズ豆、インゲン豆、えんどう豆…といろいろあるけど、じゃあ、ひよこ豆カレーや、レンズ豆カレーをズラリと並べて、「メニューの豊富な店でござい」と威張るわけにもいかないじゃないか。そもそも、そういうのをヴァリエーションとは言わないだろうし。」

「うーん、それを言っちまうと、世間に数あるカレーの専門店はどうなるんだ?」
「ボクだって、そういう立派なシェフの腕前があれば、こんなふうに悩まないよ。でも、現実はそうじゃない。キミの奥さんの腕前を疑うわけじゃないけどさ、もし奥方が、今日からカレー以外のものを一切作りませんと宣言したら、キミだって、いささか鼻白むんじゃないか?」
「あははは。まあ食べる方は辛いだろうな。でも、お前さんがさっき言ってたのは、作る側の苦労だろ?カレー専門で押し通せるなら、ブログの管理人として、こんな楽なことはないじゃないか。」
「いやいや、これは楽して稼ごうとか、そういう話じゃないんだ。『書く楽しみ』を無視してもらっちゃ困るよ。毎日毎日、旨くもないカレーを作り続けるのもシンドイものさ。しかも、他の料理を作りたくても、その方法を知らないときている。」

「なるほど、お前さんが何を言いたいのか、だいたいは分かった。でも、ちっとおかしくないか?」
「え、どこが?」
「さっき、ネタはいくらでもあると言ったろう。」
「うん、言った。」
「食材がいくらでもあるなら、なんでそんなに煮詰まる必要があるんだ?」
「だから、それは何をカレーに入れたって、所詮カレーだって…」
「そこが変なのさ。俺に言わせればだ、カレーに入れるからカレーになっちまうんだ。もっと大らかな昔に立ち返ってみろよ。昔の調理なんて、煮るか、焼くか、蒸すか、要するにちょいと火を通してガブリと喰う、それだけだったわけだ。何も難しいことはない。なまじ料理らしくしようとして、カレー粉に頼るからダメなんだ。思い切ってカレー粉なんぞ捨てちまえよ。」

「なるほど、シンプル料理に徹すれば、毎日カレー鍋を前にげんなりする必要もないわけか。」
「そうさ。ひとつガブリといこうぜ、ガブリと。」
「ありがとう。やはり持つべきものは友だな。カレーを作らなくてもいいと思ったら、今度は急にカレーもいいと思えてきた。」
「いいぞ、その意気だ。よし、今度とびきり辛いのを喰いにいくか。」
「うん、いいね。キンキンに冷えた地ビールの出る店がいいな…」