苔むすコケ学2014年06月12日 20時51分58秒

昼間は蒸しましたが、夕方からは風が出て涼しくなりました。
澄んだ空に浮かぶ、澄んだ月を見ながら帰宅、そして一本の麦酒。

   ★

さて、アワゴケ、モスグリーンの椅子ときて、つぎは本物の苔の話。
…といっても、「本物の苔」というのは、なかなか捉えがたい存在です。

ウィキペディアを見れば、コケ植物とは蘚類、苔類、それにツノゴケ類の総称であり、さらに蘚類とはこれこれ、苔類とはしかじか…と明快に書かれていますが、そういう整理がつくまでにはずいぶん長い時間がかかったようで、今後も分類体系の鮮やかな改変がないとも限りません。


19世紀前半における「苔」理解を示す図。
ドイツの博物学者、ローレンツ・オーケン(1779-1851)が著した『万人向け博物学大全(Allgemeine Naturgeschichte für alle Stände)』の図譜編より。(この大著には本文編の他に付図だけを集めた巻が伴います。)


もちろん立派な苔もいますが、仔細に見るといろいろな顔がまじっています。




地衣類は、今でも客人扱いで苔概念の末席に連なっているようですが、今や苔とはまったく無縁の藻類や菌類の仲間も、「苔(Moose)」の名の下に一括されています。
…と言いつつ、「藻類」や「菌類」というのが、これまた以前とはずいぶん扱いが変わったらしく、この辺はなかなか正確な物言いが難しいです。

   ★

人間の自然理解はどうしても人間中心になりがちです。見た目が人間離れしているといいますか、正体の知れない存在ほど「その他大勢」扱いになるのは止むを得ません。動物界でさえ、獣・鳥・魚まではいいとして、あとは「虫」と一括された時代が長かったことを思えば、「苔」や「菌」の不遇もむべなるかな。

今、ようやくそこに光が当たってきたわけですが、でも、ご当人にしてみたら、そんな人間側の事情はどうでもいいことかも。

コメント

_ S.U ― 2014年06月13日 22時54分10秒

この「地衣類」というのは、植物分類学を習い始めた子どものころから気になっていました。コケ類には、蘚類、苔類、地衣類があり、そのうち、地衣類は本当はコケではない、と当時から煮え切らない客分扱いがされていました。コケ類に...があるが、...は本当はコケ類ではない。という自己撞着を、頭のまだやわらかい子どもに披露してよいものでしょうか。

 Wikipediaを見て、地衣類は、現在では、菌類と藻類の共生状態だと知り驚きました。それならば、地衣類は菌類と藻類の両方の一種ということになりますが、藻類もその他大勢の寄合所帯みたいで、つまり、地衣類は、その他大勢の寄合所帯の一部が連携して別種の家(コケ類)に居候して同棲している状態だと考えると、わかりやすくはないでしょうか(わかりやすいはずないか)。

_ 玉青 ― 2014年06月14日 09時16分12秒

>コケ類に...があるが、...は本当はコケ類ではない

うーん、悩ましい言い方。(笑)
「いったいどっちなんだ」と、子供ならずとも突っ込みたくなります。
まあ、地衣類が菌類と藻類の共生体であるという、その生物学的な正体ははっきりしているので、それを「苔」と呼びうるかどうかは、最終的に司法の判断にゆだねるしかない…かもしれません(まさに「ちい確認訴訟」・笑)。
自衛隊は軍隊か否かという議論とちょっと似たものを感じます。

_ S.U ― 2014年06月14日 20時44分14秒

>「ちい確認訴訟」
 これはケッサク(笑)
 
 人間の見た目で生物の地位が決まるようになると、アワゴケ属も被子植物からの離脱を訴えるかもしれません。そうなると、オカヒジキや山クラゲあたりが同調するということもありえます。

_ 玉青 ― 2014年06月15日 11時49分45秒

うーむ、そうなるとコケ界に波紋が広がりそうですね。
純正コケはコケで、蘚類と苔類の間で反目が広がり、互いに他を非コケ呼ばわりする動きが出てきたり、かと思うと「ゴケ」の名称独占を唱えて、後家さんたちが激しい法廷闘争を繰り広げるなど、事態はますます紛糾することも予想されます。

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