「星を売る店」のドアを開ける(1)2015年06月21日 11時13分57秒

静かな日曜日。
でも、耳を澄ますと遠雷が聞こえ、ざっと一雨来そうな空の色です。

ときに、ブログの趣旨とおよそ不似合いな、政治向きのことを書くと、ややもすると不興を買うことがあります。私としても、そんな生臭いことを書かずに済む世の中が、早く来てほしいと心底望みますが、でも現在の状況は、基本的にノンポリの私から見ても、相当危機的です。ここで物を言わないと、たぶん一生言う機会はないでしょう。
駄馬なりとも天下の秋に際会すれば駆けざるべからず、の心境と申しますか。

それでも、しばし心を静めて、呑気という貴い徳を追い求めることにします。

   ★

(戦前のシガーラベル。既出ですが、イメージにピッタリなので再登場)

昨日までのところで、ようやく「星を売る店」までたどり着きました。

これまで用法が不統一でしたが、以下、話を簡明にするため、足穂の文学作品は「星を売る店」、そこに登場する、星を商っているお店は「星店」と呼ぶことにします。また「星店」の記述については、再び現行形態に戻り、作品発表時の初期形態については、話の流れの中で、参考程度に触れるにとどめます。

(…と書いているうちに、ざっと降って来ました。)

   ★

 が、この時横切ろうとした辻の向うがわに、ふしぎな青色にかがやいている窓を見た。青い光に縁がある晩だ、こんどは何者であろう、と近づいてみると、何と、その小さいガラス窓の内部はきらきらしたコンペイ糖でいっぱいでないか!

 ふつうの宝石の大きさのものから、ボンボンのつぶぐらいまで、色はとりどり、赤、紫、緑、黄、それらの中間色のあらゆる種類がある。これが三段になったガラス棚の上にのせられ、互いに競争するように光っている。

部屋が暗いので、写真は追々準備するとして、構想のあらましだけ書いておきます。

以前、試みた「ジョバンニが見た時計屋の店先」は、実際のショーウィンドウをお借りして、そこにいろいろなモノを並べてみましたが、「星店」のショーウィンドウは、「小さいガラス窓」だそうですから、いっそのこと、飾窓そのもののを、自分の部屋に作ってしまおうと思います。

…といっても、小さなガラス棚をショーウィンドウに見立てるだけのことですが、既にそのための棚を先日買いました。そこにカラフルな“星”を並べたり、他にも「星店」にちなんだモノをいろいろ配して、あの涼しげな、そして奇妙な作品世界を、ささやかながら味わおうという計画です。

(この項つづく)

コメント

_ 蛍以下 ― 2015年06月21日 13時34分21秒

>既にそのための棚を先日買いました。

「酔狂」の二文字が流星のごとく脳裏を掠めていきました(イイ意味で)^^


ところで、この作品は睡眠中の夢から着想を得た、などといったエピソードは、確か無かったですよね(間違ってたらすみません)。
仮に夢がヒントになったとしても、足穂は、そんな解説めいたことは言わない気もしますが。
一千一秒物語の「赤鉛筆の由来」などは、昨夜自分はこんな夢を見たという話なので、フと気になりました。
脱線ついでに、玉青さんは「理科系アンティークショップで掘り出し物を見つける」という夢を見たことがあるのではないかと推測しております。

_ S.U ― 2015年06月21日 13時49分03秒

文化を担おうとする気概には、「先憂」も「呑気」も徳であることは間違いないでしょう。「衣食足りて礼節を知る」に倣えば、「先憂足りて呑気を知る」あるいは「呑気足りて先憂を知る」でしょうか。

 それから、"Nord Stern"で思い出しましたが、ある共産主義者が(名前は忘れました)、思想というものは北極星のようなもので、年月が経った後、社会や自分がどれだけ(真理から)はずれたところに来てしまったかを知らせてくれるものだ、と言ったことを読んだことがあります。もとより、これは共産主義の専売特許ではなく、どんな思想や学問もそうでなければならぬと思います。

_ 玉青 ― 2015年06月22日 06時18分25秒

○蛍以下さま

あはは。自分でも酔狂だなあと思います。
もうここまで来ると、「毒を喰わば皿まで」の心境ですね。

「星を売る店」は、現実(作品内の現実)に存在する明るいショーウィンドウに主人公が触発されて、そこから「星店」を空想し、脳内でそこを訪れた(したがって作品の後半はすべて主人公の妄想)という、一種の夢オチ的物語なので、夢とは縁が深いかもです。(足穂自身は、東京で見た時計屋の店先の記憶と、神戸山手の風景とがミックスされて生まれたもの…という趣旨のことを語っていたと、先日コメント欄で教えていただきました。)

掘出し物の夢は…うーん、ないですねえ。(笑)

○S.Uさま

力強いお言葉をありがとうございます。
この先も気力・膂力を充実させて、歴史の真実を眼底に焼き付けて参りましょう。

_ 蛍以下 ― 2015年06月22日 17時41分48秒

>東京で見た時計屋の店先の記憶と、神戸山手の風景とがミックスされて

あ、そうでした。これはうっかりしてました。
主人公が覗き込んだガラス窓の内部の描写が、私自身が見る夢に似てたもので(好きなものが並んでいる感じが)、夢に付会してしまったようです。
人の趣味に応じて、「星店」を古書店であったり、レコード屋、お菓子屋、文具屋など、なんでもいいですが、他の店に置き換えることができるとすれば玉青さんなら・・・といった次第で上のような推論に至ったわけですが、ハズレましたか(^^;

_ 玉青 ― 2015年06月23日 06時59分51秒

「不思議なものが並んだお店」というイメージが好きです。
文字でも、映像でも、コミックでも、そういう店が登場する物語は多いので、これは私だけでなく(おそらく蛍以下さんも含め)多くの人がそうなのでしょう。もちろん、そこに並んでいる商品も気になりますが、それ以上に、そのお店の存在そのものや、店主の人となりが気になります。私が理系アンティークの店に惹かれるのも、かなりの部分はそれですね。とにかく、いろいろ夢と想像を掻き立てられる対象です。

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