化石の幻燈スライド…クリスマスの晩に2013年12月25日 20時07分17秒

やあ、いらっしゃい。この寒空によく来てくれたね。
僕もちょうど話し相手が欲しかったところさ、嬉しいよ。
…え、何か面白いモノはないかって? なんだ、君の目的は、僕よりもそっちか。はは、相変わらずだね。うん、まあ、なくもない。これなんかどうだい?


化石の幻燈スライドさ。世間に化石はたくさん売ってるけど、それを写した古いスライドはちょっと珍しかないかい。種類はよく分からないけど、シダとホタテガイの仲間らしいんだ。


両方ともたぶん20世紀初めごろのものだろう。まあ、化石自体は何万年も、ひょっとして何億年も昔のものだからね、古いことにかけちゃ実物にまさるものはないさ。もちろん資料的価値もね。だけどどうだい、このスライド、見るからに美しいと思わないかい? …ありがとう、君ならそう言ってくれると思ったよ。


それにしても不思議だよね。こんなに鮮明にそこにあるのに、これがすべて幻だなんて。こうして指でなでれば、ザラザラ、ごつごつした感じがしそうじゃないか。それなのに僕の指はツルツルのガラスに触れるばかりなんだ。何だか果敢ないね。…え?果敢ないから美しいって? うん、月並みな表現だけど、これを見ていると、たしかにそんな気もする。

…ああ、風が強くなってきたね。雪でも降り出しそうだ。
ところでこのスライドだけど、どこにもメーカー名の表示がないから、誰か個人が授業の教材か資料用に作ったものだと思う。きっと、100年前のイギリスの学校の先生が作ったんじゃないかな。


ほら、この紙の具合や、欄外の筆跡を見てごらんよ。2枚とも明らかに同じ人物が作ったものと分かるだろう。

   +

さて、ここまでは実は話の前置きでね。本文はここからと思ってくれたまえ。
このスライドには、ちょっとした謎があるんだが、分かるかい? …ははは、降参か。まあ無理もない。スライド自体に変なところは何もないからね。

種を明かすと、この2枚のスライドは、別々の業者から買ったものなんだ。二枚貝を売ってたのはイングランドの真ん中、ノーザンプトンシャーの業者で、シダの方はそれよりずっと北、スコットランドに近いタイン・アンド・ウィアの業者さ。君、両者の距離はざっと350キロだぜ。東京と名古屋よりも、もっと遠い。

100年前に作られた化石のスライドが、いつの時代か離ればなれになって、別人の手に渡った。途中何度転売されたか知れない。それが日本の僕のところで、見事再会を果たしたってわけさ。どうだい、クリスマスにふさわしい夢のある話だろう。

…おや、急に黙ってしまったね。ははは、君にもこの謎はちょっと手に余るか。
たしかに、怪談じみた感じもするよね。何か因縁を感じるし、これは例の先生の執心のなせるわざかもしれない。でも、その執心がこれで晴れたなら、やっぱりめでたかろうじゃないか。

ああ、雲が切れたと思ったら、今度はものすごい星空だ。道理で冷えるはずさ。
さあ、熱いのがついたから、今度は君の話を聞かせてくれないか。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック