周期表の世界に分け入る2019年01月14日 08時15分26秒

ある人が言いました。
「人間って、そんなに単純なもんじゃないよ。」
おっしゃる通り。
人間は、ある側面でスパッときれいに割り切れる存在ではありません。

別の人が言いました。
「原子だって、そんなに単純なもんじゃないよ。」
そう、原子もまた複雑なのです。

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周期表のことを分からない、分からないと言いながらも、あれから自助努力により、だいぶ「知の進化」を遂げました。「男子三日会わざれば…」というやつです。と言って、別にたいしたことをしたわけではなくて、「高校化学の基礎」という類のサイトを見て回っただけです。それでも、周期表について、だいぶ見通しが良くなりました。

その上で、周期表を見直してみます。

元素を原子量の順番に並べてみたら、そこに明瞭な規則性(=化学的性質の類似)が浮かび上がった…というのが、メンデレーエフの慧眼であり、周期表の手柄でしたが、なかなかどうして、それだけでは割り切れない部分が残ります。つまり、その「明瞭な規則性」には例外もいろいろあって、原子から構成される各元素は、原子量では割り切れない「ワケあり」の事情をいろいろ抱えているのでした。

たとえば、周期表の中央部、一等地を占拠している遷移元素たち。そして謎のアクチノイドランタノイド集団。あるいは表の冒頭に置かれた水素ヘリウム。これらはすべて全体の和を乱す曲者です。そして曲者がこんなに多くては、「周期表」の名が泣こうというものです。

ただ、そうした不規則性こそ、各元素の「ワケあり」の部分で、さらに一歩立ち入って、元素たちに自らの内情(原子構造)を語ってもらえば、「なるほど、それならやむを得ないね」と、その道の専門家なら納得が行くらしいです。不規則には不規則なりの理屈と言い分があるのです。

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 「でもさあ、それにしたって今の周期表は、あちこち継ぎはぎだらけで、スマートじゃないよね。もうちょっとどうにかならんかなあ」…と考えるのが賢人。そのため、周期表には昔からいろいろな代案がありました。その試みの一端を、以下のブログ記事で拝読しました。

■Chem-Station(ケムステ)  周期表の形はこれでいいのか?
 -その1:HとHeの位置編-
 -その2:ブロックの位置編-

記事中、「ジャネット周期表」というものが紹介されています。

これは今の周期表にひと手間加えて、そのいびつな形を、きれいな階段型に整形したものです。詳細は元記事をご覧いただきたいですが、ジャネット周期表自体は、1930年ごろにさかのぼる、かなり長い歴史を持つもので、その外観と作表原理は非常に洗練されていますが、同時に短所もあって、従来型周期表にとって代われないのは、そのデメリットがメリットを上回るからのようです。(縦の「族」はいいとしても、横の「周期」に新たな乱れを生じ、周期律の味わいを損ねるらしい。)

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さて、ここまでが長大な前置き。
ここまで調べて、ようやく手元にある品の正体が分かった…というのが話の眼目です。

(高さ約15cm)

(バラすと大小8枚の円盤に分かれます)

私の机の上には、5年前から「円柱型周期表」(Periodic Round Table)というのが、ずっと置かれています。モノとしては、同名のPeriodic Round Table社(米・バーモント)が1990年代に発売したものですが、これが一体何なのか、ずっと謎でした。でも、やっと胸のつかえが下りました。

(この表では、1974年に発見されたシーボーギウム(Sg、原子番号106)以降は、空欄になっています。また1970年に発見されたドブニウム(Db、原子番号105)は、当初アメリカが提唱したハーニウム(Ha)と記載されています。)

付属のパンフレットには、その基礎となる変形周期表が載っていますが、これは「ジャネット周期表」そのものです。そして、これを周期ごとに筒状に丸めて、円盤状にスライスしたのが、手元の「円柱型周期表」というわけです。まあ、そのことはパンフレットを見れば分かるのですが、その背景となる考えが皆目分からなかったので、結局正体不明のオブジェのままでした。


今では、この円盤ピラミッドの垂直方向の連なりが「族」に相当し、互いに似た化学的性質を示すことが、明瞭に分かります。さらに「知の進化」のおかげで、円盤の隅っこに書かれた「1s、2s…、2p、3p…、3d、4d…」の記号が、基底状態における各原子の最もエネルギー準位の高い電子軌道を指しており、化学結合する場合はここに電子が滑り込むのだ…といった、3日前の私にとっては、手ごわい事実も理解できるようになりました。

(この方向で重ねると、「族」がそろいます)

パンフレットの最後に、メリーランド大学で物理学を教えているジョセフ・サッチャー先生(Joseph Sucher)という人が、推薦の辞を寄せているので、適当訳しておきます。

 「もしメンデレーエフが生き返ったら、彼はこの『円柱型周期表』を見て、きっと喜ぶに違いない。この素晴らしい発明品は、地球儀と同じぐらい私室や書斎に似つかわしい。これを使えば、原子の電子的構造を、見慣れた周期表よりも一層ダイレクトに知ることができる。この品は、子供たちの好奇心を呼び覚ます教育玩具としても、また科学者のための優れた精神安定剤としても役立つだろう。」

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所詮は、焼き印を押した木切れに過ぎないとはいえ、その意味するところは、なかなか深遠です。さあ、私も今こそ周期表の世界に分け入る準備が整ったようです(三日漬けのくせに、だいぶ増長していますね。でも所詮は三日坊主でしょう)。