青い闇。一瞬の輝き。2009年08月29日 16時26分35秒

(↑額縁のガラス越しに撮ったので、私自身の影が写り込んでいます)

19世紀後半のフランスの天文書の挿絵。
絵師と版画職人の分業で刷られた、美しい石版画です(印刷面のサイズは約 10.5×17.5センチ)。
これ1枚バラで売っていたので、元の書名は残念ながら分かりません。
今は額に入れて書棚の前に掛けてあります。

最初、彗星の絵かな?と思いましたが、タイトルを見れば分かるように、流星の親玉である「火球」とその軌跡を描いた絵。

星が静かにまたたく夜。
まばらな木立の上に突如現れた巨大な火球。
その明かりが水面に反射し、河畔に係留されたボートのシルエットが浮かび上がった瞬間。

そうした<一瞬>を切り取り画面に固定した、画家のすぐれた眼と技量、それに豊かなイマジネーションに感心します。何となく火球が消え去ったあとの静寂と深い闇までも予期させるところに、絵としての深みがあるようです。

『星の世界をゆく』…星景画の時代(その3)2008年12月07日 08時14分09秒

一昨日の記事の続き。こちらが『天空』所収の元絵です。

■Amedee Guillemin,
 LE CIEL.
 L. Hachette(Paris), 1877(第5版)

撮影条件が違うとはいえ、両者の色合いの違いは、ディスプレイ上でも歴然としています。
ギユマンの方は、空も大地も澄みきった鮮やかな色味で、すっきり爽やかな印象。
先入観を持って見るせいか、風景も何となくフランスっぽく見えます。
(ピレネーとかフランス・アルプス辺りの光景?)

  ★

ところで、かすてんさんからコメント欄でお知らせいただいた情報によると、来年のしし座流星群は、かなり期待できそうだとか。11月17日が今から楽しみです。

それにしても、前回の当たり年、2001年からもう7年も経つんですね。

       ブッシュ政権、小泉政権の成立。
      9.11同時多発テロ。
     Windows XP発売。
   千と千尋の神隠し。

つい先日のような気もするし、もっと昔のような気もします。

この間、地球は太陽の周りをクルクルと7回まわり、太陽系はヘルクレス座の方向に66億キロばかりにじり寄り、銀河系は1300億キロ腕をぶん回しました。多くの人が生まれ、多くの人が逝った7年間。

あの日、あの空間に帰ることは2度とできませんが…できませんが………
どうも、結びの文句がうまく思い浮かびませんが、歌に託せば↓のような気持ちです。
 http://jp.youtube.com/watch?v=nGn9xQzl2ZI&feature=related

『星の世界をゆく』…星景画の時代(その2)2008年12月05日 22時26分35秒

(↑画面右側が白っぽいのは光の反射)

1872年のしし座流星群。
輻射点から四散する流星の軌跡を、1枚の絵に重ね合わせたものでしょう。
これだけ見ると、華麗な花火そのもの。

ほの白く浮かび上がる、アルプス山脈の稜線が、幻想的な美しさを見せています。
天空の壮大なドラマも知らぬ気に、静かに眠る山村の描写もいいですね。

これも元絵はギユマンの『天空』ですが、地上の景色は、ここでもドイツ風(スイス風?)に改変されています。なお、「しし群」の絵は、1877年に『天空』の第5版が出た際、新たに付加されたもの。

掌中の太陽系史…アエンデ隕石2008年07月17日 22時25分50秒

ヴンダーカンマー趣味というのは、単なる珍し物ずきにとどまらず、世界の全てを我が物としたい、あるいは自分だけの世界を創りたいという欲求と結びついているように思います。

世界の果てにある物、ひたすら古い物を求めるというのも、まずは世界の外縁をぐるりと縁取りたいという願望ではないでしょうか。

  ☆★

で、私の部屋にある古い物といえば、このアエンデ隕石。
これは古いです。ざっと46億歳。地球より古いとも言われます。太陽系の初期に形成され、その後砕け散った原始惑星の名残らしい。1969年、ちょうどアポロと入れ替わりに地球に飛来したのも何かの縁かも。メキシコのアエンデ村に落下した総量は、数トン規模に達し、その分商品としての流通量も膨大で、「貴重だけど安価」な隕石です。

まあ値段はともかく、今掌に46億年が乗っている…と思うと、それだけで頭の芯がジーンと痺れるような感じがします。

私は一応これの所有主なのですが、隕石からすれば、自分の年齢の1億分の1にも満たない、グンニャリした有機物の塊に主人面されて、大いに片腹痛い思いかもしれません。

天文学者は白髪頭か?…19世紀と20世紀2007年10月04日 22時45分11秒

以前、「(19世紀と20)世紀の境目をまたぐ四半世紀の間に、天文学の進化と並行して、天文趣味を表象する図像表現にも大きな変化があった」と書いたことがあります。(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/07/13/443527

要するに「時代の変遷」ということなんですが、改めてそのことを考える材料として、2冊の本を比べてみたいと思います。

まずは1910年に出た、エリソン・ホークスの『子どもたちに示す星々』。

★Ellison Hawks
 STARS SHOWN TO THE CHILDREN.
 T.C.&E.C. Jack, London, 1910.
 119pp, 16mo.

その序文を読んでみましょう。

「愛するホリーとシシリー。多くの人は、天文学、つまり星の科学なんて無味乾燥で面白くない学問だし、天文学者といえば髭を生やした白髪のお爺さんだと思っている。でも君たちはお父さんの言い分を認めてくれるだろう。天文学は趣味の中でもいちばん魅力あるものの一つで、天文学者は決して白髪頭の老人ではない!ということを。」
(この著者は、娘の手前だいぶ若さにこだわっていますね。)

そしてもう1冊は…(例によって明日につづく)

Beautiful Books on Astronomy … レイノルズ『天文学および地理学図集』⑥2006年12月05日 23時43分15秒

さて、この奇怪な図版がお分かりでしょうか。

表題には 「COMETS AND AEROLITES 彗星と隕石」 とあります。

中央は彗星軌道の説明図で、その周囲に浮かぶ奇妙な物体は、過去に観測された彗星図。中にはプランクトンや一反木綿のようなものもあります。下の方に飛んでいる妖怪じみた連中は、一応 「古人の筆になるもの」 と断り書きがしてありますが、 「恐らくはイマジネーションの産物であろう…」 と疑ってかかっている気配は微塵もありません。

説明書きを読むと 「彗星は軽い気体状の物体である。通常ぼんやりと輝く雲のような光の集合体である“頭”と、そこから発する“尾”と呼ばれる長い光の流れからできている」 とあり、彗星の正体自体まだ謎…それこそ妖怪じみていた時代であったことを、改めて知ります。

両脇下に小さく描かれているのは 「Shower of Aerolites 隕石雨」。今なら 「流星雨」 と呼ぶところですが、隕石と流星もまだ混同されています(その区別が明快になったのは20世紀もだいぶ後のことですが)。

それにしても奇っ怪な彗星たちよ…。

キーストーン社のステレオ写真2006年07月26日 06時30分48秒

昨日につづき、同社の製品から天文関係の品々をまとめてご紹介します。

左上から時計回りに…
天王星と2つの衛星、火星、土星、満月、オリオンを流れる流星、月齢17の月、モアハウス彗星(1908年接近)。

土星(ウィルソン山天文台)以外は、すべてヤーキス天文台で撮影されたものです。

以前、サンダーソン氏が天文コラムに書いていた「骨董業者に勧められた年代物の立体写真」というのも、たぶんこの類の品でしょう。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/29/230491

* * * *

セピア色の画面には、おじいさんや曾おじいさんの頃の空の思い出が、ギュッと封じ込められています。

空の花火…流星雨2006年07月22日 10時19分57秒

梅雨明けも近づき、各地で花火大会が始まっています。

図は1833年11月12~13日に、北米で観測されたしし座流星群。
以前にも紹介した、エドムント・ヴァイスの『星界の絵地図』(1892)より。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/02/21/262309

すごい絵ですね。
同時にこれだけの流星が飛んだわけではないにしろ、まさに花火大会さながらの光景。
流星の軌跡がひょろひょろと表現されているので、なおさら花火っぽい感じです。

2001年の「しし群」の感動はいまだ記憶に新しいですが、この1833年も大当たりの年で、「この世の終わりだ!」と叫んで地にひれ伏す人が大勢いたとか。

今、こちら(http://www.walkerplus.com/hanabi/)を見たら、今日もあちこちで花火があがるそうです。

シガレットカード…ROMANCE OF THE HEAVENS2006年05月24日 05時27分56秒

シガレットカードというのは、昔(1890~1940年ごろ)の煙草の箱に、おまけで入っていたカードです。つまり当時の販促グッズですね。蝶や花や車や、いろいろシリーズになっていて、今も熱心なコレクターが多いと聞きます。欧米では、ちょっと「めんこ」集めに似た、ノスタルジックな趣味のようです。

おまけカードまで集め出しては、本来の天文趣味から、ますます遠くなるような気もしますが、でも、「シガレット」という言葉は一寸いいですね。タルホ(=稲垣足穂)っぽい感じがします。

上に示したのは、"Romance of the Heavens"(1928)と題した50枚セットのシリーズで、宇宙モノを代表する品です。リトグラフの潤んだような色彩が、最近のカラー印刷にはない味わいを出しています。


☆左列上から…
★月から見た地球★典型的な月のクレーター★流星雨★小潮★ハレー彗星
☆右列上から…
★地球照★月のクレーター★月の暈★大潮★月の形成に関する一説

(各カード 3.5 x 6.7cm)

メアリー・ウォード著 『望遠鏡』(6)2006年04月01日 08時30分04秒

繊細な美しさをたたえた流星の図。
牛飼い座からかんむり座に向けて飛んだようです。

ピクチャレスクな構図に加え、空の色の微妙な濃淡や、巧みな遠景のぼかし、そして樹木のシルエット表現など、独立した版画作品として見ても、その技巧には端倪すべからざるものがあります。

   ★    ★    ★

ところで、この本の巻末には新刊書の広告が載っているんですが、そこにビクトリア時代の科学趣味がうかがえるとともに、ウォード夫人のこの本が、どんな文脈で読まれたかも分かってたいへん興味深く思います。

たとえば、こんな本たちです。

●シャーリー・ハイバード著 『庭のお気に入りたち-その歴史、性質、栽培、繁殖、そして四季の手入れ』

●同著 『アクアリウムの本-淡水と海水の生物コレクション、その構成と入手法、四季の管理についての実践的な教え』

●ウォード夫人著 『顕微鏡が明かす驚異の世界-若い生徒たちのための本』

●H・G・アダムズ編 「青年博物学徒文庫 Young Naturalist's Library」
 第1巻 「身近な鳥の巣と卵」
 第2巻 「続・巣と卵」
 第3巻 「美しい蝶」
 第4巻 「美しい貝類」
 第5巻 「ハチドリ」

●スペンサー・トムソン著 『眼球の構造と機能-神の力、智恵、徳の例証』

上の4つぐらいは、今でも探せばありそうですが、最後の本は如実に時代相を表しています。

そのタイトルからして、この本は当時一世を風靡した「デザイン論」-自然界に存在する複雑な構造物こそ、偶然ならぬ神の意思による産物であり、神の存在証明に他ならない-を説く本だと思われます。

当時の科学趣味はキリスト教との相克の中で、複雑な色合い(ときにそれを擁護し、ときに反駁した)を帯びていましたが、天文趣味もその例外ではありませんでした。当時のアマチュア天文家には、聖職者が有意に多かったことは、天体観測がときに神の栄光を称える行いとして営まれたことを示しています。