聖星夜2014年12月24日 06時30分45秒



 夜と昼が交錯する、不思議な明るさをたたえた空。
  ゆるやかな丘陵に、一人立つ樅の木。
   その上を音もなく飛ぶ、流星の白い軌跡。

私の好きな戸田勝久さんの絵葉書です。

氏の絵は、すぐれて具象的な中に、豊かな幻想性を盛った、透明感のある作風を特徴としますが、同時に氏は神戸の人であり、「星を売る店」や「星を造る人」など、足穂を題材にした作品を多く手がけられている点も、心を惹かれます。

上の絵葉書のタイトルは「GENTLE NIGHT」。
ベルリンのメーカーが発行したものです。

   ★

それではよいクリスマスを。

爽やかな星空、爽やかな日食2014年05月30日 06時54分24秒

エライ目にあいました。
メールソフトがうまく動かないなら、データのバックアップを取って、アンインストール→再インストールで楽勝…と思ったのですが、そのための作業がいちいち難渋して、万策尽きました。

しかし、XPからwindows8に乗り換えて以来、とんとご無沙汰だった「システムの復元」にふと思いが至りました。さっそく試みると、その過程でCドライブ上にデータの破損箇所があることが判明。どうやら、不調の根本原因はそれだったようです。その修復もした上で、システムを復元したところ無事復調。杖の一振りで万事もとに戻せる魔法使いになった気分です。

   ★

さて、前々回のつづき。
天文古書に関して、美しい本や愛らしい本はいろいろ思い浮かびますが、「爽やかな本」となると、すぐには出てきません。でも、下の本はまさにそう呼ぶのがふさわしい気がします。


H. J. E.Beth
  Van Zon Maan en Sterren 『太陽・月・星』
  Almero., W.HIlarius Wzn. ca. 1930.
  16mo, 38p.

ちょうど日本の新書版サイズの、表紙からして実に可愛らしい本。


オランダ語なので内容は想像するしかありませんが、この本に爽やかな印象を与えているのは、その明るい色使いです。


かつて、これほど爽やかな日食の光景があったでしょうか。
もちろんこの画工は日食をじかに見たことがなかったはずですが、作者もこの絵にあえて文句を付けなかったところを見ると、この絵が気に入っていたのでしょう。
あくまでも青い空に、白いコロナをまとった黒い太陽。緑は鮮やかに濃く、辺りは光にあふれ、静かで穏やかで…。




星図も、月の満ち欠けも、妙にきっぱりとした色使いで、そこにはおよそ迷いというものが感じられません。


草原の上でパッとはじける火球。


淡い菫色の空を照らしだす、この黄道光の絵も実に爽やかな印象です。

   ★

この本が描くのは一切の苦しみがない世界であり、これは一種の浄土絵なのかもしれません。

八月尽と流星2013年08月31日 13時38分38秒

「八月尽(はちがつじん)」は、八月の終わりを指す俳句の季語。
歳時記では初秋に置かれていますが、気分的にはまさに夏の終わり。

 人気のなくなった砂浜に打ち捨てられた麦わら帽子、
 空っぽの虫かご、
 下葉に黄色いものが交じってきた山の木々、
 キラキラ輝く夏の思い出が、文字通り「思い出」に転ずるとき―。

なんとなく祭りの後の寂しさに通じる哀感を漂わせる語句です。

今年の異常な猛暑で、秋の訪れを心待ちにしていた人も多いと思いますが、それでも猛暑は猛暑なりに、やっぱり一種の高揚感めいたものがあったような気がします。

私はあと何回、夏を迎えることができるのだろう…
そして、あの親しい人たちはいったい…
そんなことも、この頃は気になりだしました。

   ★

歳時記で「八月尽」の句を探しましたが、あまり心に残る句は見つかりませんでした。
でも、1枚ページをめくったら、流星」がやっぱり初秋の季語であるのを発見。
流星と秋…なんとなくつながるような、つながらないような…。

  星のとぶ もの音もなし 芋の上    青畝
  死がちかし 星をくぐりて 星流る    誓子
  流星や 黍〔きび〕に風ある 門畠   立葵

流れ星は四季を通じて飛びますが、そのかすかな涼感に、秋を感じるということでしょうか。

(オリオン座の下をかすめる流星。1930年代のステレオ写真。)

   ★

記事の方は「天体議会」をしばし離れて、製図ペンの話から、さらに製図用具周辺の話題に移る予定です。

天体議会の世界…鉱石倶楽部幻想(1)2013年08月13日 20時35分36秒

最近、毎日のように夜中に目が覚めます。

今朝がたも3時頃にパチッと目が開きました。ご承知の通り、今日はペルセウス座流星群の極大日でしたから、ブラインドを上げ、そのまま床に横になって、窓の外をじっと眺めていました。空は美しく澄み、ほどなく明るい流れ星が1つ、スーッと空を横切りました。しばらくすると、こんどは小さな流れ星がスッと飛びました。でも、それっきり空は沈黙してしまい、私もまたいつの間にか眠りに落ちていました。

ビギナーズラックというのか、どうも最初は調子よく事が運ぶのに、後が続かないことってありますよね。今回もそれに近かったですが、でも、そのせいで、いっそう最初の流星の美しさが印象に残ったともいえます。

   ★

さて、「天体議会」のつづきです。

「八時前か。ひとまず朝食をとるっていうのが理想だな。どうせきみは抜いてきたろう。」
「いつもどおりさ。」
「ぢゃあ、きまりだ。」
水蓮は、銅貨の肩に軽く腕をまわして歩きだした。(p.20)

こうして二人は、ある場所へと向かいます。

彼らの行くところといえば、ただひとつ〔原文3字傍点〕にきまっていた。放課後、必ずといってよいほど足を向ける鉱石倶楽部のことだ。(pp.20-21)

(理科教具の老舗、前川合名会社()の昭和13(1938)のカタログより)

鉱石倶楽部―。
この第1章の章題にもなっている場所こそ、この小説において、理科趣味濃度が最も高い場所です。そこがどんな所かは、これまで何度も引用した記憶がありますが、これは何度繰り返しても良いので、また掲げます。


 名前のとおり、鉱石や岩石の標本、結晶、化石、貝類や昆虫の標本、貝殻、理化硝子などを売る店で品揃えは驚くほど雑多で豊富だった。この倶楽部で一日じゅう暇をつぶす蒐集家のため、麺麭〔パン〕や飲みものを注文できる店台〔カウンター〕もあった。

 鉱石は少年たちの小遣いで買える程度のものもあれば、羨望のまなざしを注ぐだけの高価なものまである。彼らは主に、比較的手に入れやすい鉱物の結晶を集めていた。方解石、クジャク石、ホタル石などの結晶は掌にのせて眺めるのも、光を透して屈折させてみるのも面白く、銅貨も水蓮も毎月、小遣いのほとんどをこの倶楽部で費やしている。(p.21)


弱冠13歳にして「行きつけの店」があるというのは、生意気ですが、羨ましい。
まあ、それはともかくとして、鉱石倶楽部は鉱物をはじめとする理科アイテムを揃えたショップなのですが、そこは決して明るく整然とした店ではありません。むしろ暗くて雑然としています。ただ、そのたたずまいには、作者・長野氏の美意識が凝縮されていると感じられるので、以下も何度目かの引用になりますが、店内の様子を見てみます。


 天井は伽藍のように高く、よく磨かれた太い柱で支えられている。柱は濃い朱色をしており、見たところでは石材か木製か判別しにくいが、手を触れてみれば芯まで冷たく、石でできていることがわかる。

 回廊をめぐらした二階があり、欄干は浮彫りの唐花〔とうか〕模様を施した重々しい構造で、花崗岩〔みかげ〕の床や天窓のある建物に、妙に合っていた。中央に、これも欄干に合わせて木製の階段が迫りあがるように急な勾配で二階までのび、昇りきったところに、幾何学模様の重厚な布が吊るしてある。或る種、博物館のような黴〔かび〕くさい雰囲気と、ガラン、とした広さが同時にあった。硝子戸棚や陳列台は互いに重なり合うように並んでいる。

 標本やレプリカ、さまざまな模型やホルマリン漬けの甲殻類などが、硝子戸棚に詰めこまれている。扉を開けた途端、荷崩れしそうな具合で、机の脚の下や階段の下には未整理のまま、荷箱に入れてあるだけの鉱石や貝殻が、数えきれないほど放置してあった。(p.24)


この古びた重厚なムード。現実世界でいうと、たぶん戦前の博物商や理科器具商が最もイメージ的に近い存在でしょう。あるいは昔の学校の博物標本室とか。


(同じく前川のカタログ口絵より。店舗全景と陳列場の一部)

ここで、話をそちらに持って行ってもいいのですが、先週の出張の合間に、鉱石倶楽部の姿を追って、あるお店と博物館を訪ねたので、そのことを書きます。

(この項つづく)


【※自分自身のための瑣末な注
 伝統ある同社は、その後「前川科学」へ、さらに「マリス」へと社名変更した後、ひっそりと店を閉じた…と思っていたのですが、下のページによれば、現在の「(株)リテン」と、どうやら系譜的につながっているようです。

午後の理科室:理科「教材・教具」関連会社
 http://www.eonet.ne.jp/~sugicon/gogo/01kyoto/company.html


天文古書の挿絵に見られるコピー文化2013年07月15日 08時51分41秒

先日のザイファートの『少年天文読本』(1865頃)の記事の中で、ナイアガラの滝の上に舞い飛ぶ流星群の挿絵が登場しました。

(画像再掲 元記事 http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/07/12/6899666

これをめぐって、「そういえば、この絵って他でも見たことあるよね」というやりとりが、例によって常連コメンテーターのS.U氏とコメント欄でありました。

たとえば、私がすぐに思い出したのが下の絵です。出典はヴァイスの『星界の絵地図』(1892)。ご覧のとおり左右が反転している以外、ほとんど同じです。

(画像再掲 元記事 http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/07/22/455498 
ただし、元記事の画像は小さいので↑は同じ絵をウィキから引っ張ってきたもの。
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Leonid_Meteor_Storm_1833.jpg

当時は、こういう「パクリ」が普通に行われていたので、ひょっとしたら、『少年天文読本』の挿絵にしても、どこかに元絵があるんじゃないか…と思ったのですが、それがすぐには分かりませんでした。

   ★

「あ、そういえば…」と、さっきふと思い出しました。「こういう時のための画像検索じゃないか!」と。

さっそく「1833 leonid」で探したら、1枚の絵に行き当たりました。“灯台下暗し”、これまた英語版のウィキに、ふつうに掲載されていた図です。


説明を読むと、年次や巻号の記載がありませんが、出典は「Mechanics' Magazine」という雑誌で、この挿絵は直接その光景を目撃した、同誌の編集者・ピカリング氏の手になるものだ、とあります。たぶん1833年のしし座流星群に関して、それからあまり間をおかずに掲載された記事に付けられた図でしょう。

もちろん、このピカリングの絵と、冒頭のザイファートの本の挿絵とでは、滝を見る方向が、正面からか、横からかという基本的な構図の違いをはじめ、パッと見ずいぶん印象が違います。本当にこれを元絵と言い切っていいかどうか?

しかし、ここに下のような絵を介在させると、両者の連続性が見えてきます。

(1850年頃に出た、レイノルズの『天文学および地理学図集』より。
元記事は以下。 http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/12/05/984369

だいぶ景観描写に手が入っていますが、それでも、これがピカリングの絵の模倣であることは明らかでしょう。
そして、ここで注目すべきは、手前の岩(茶色く彩色されています)の先端近くにいる二人の人物です。…え?人に見えない? ええ、私の目にも人には見えません。単なる岩のでっぱりのように見えます。

しかし、この本のフランス語版がベルギーで出た際(1862年頃)には、これがなぜかはっきり人の姿に変化しているのです。


そして、この絵と最初のザイファートの絵を比べると、ザイファートの絵になぜ2人の人物が描き込まれているのか、この絵の由来そのものを、2人の後ろ姿が雄弁に物語っているように思うのですが、はて、どんなもんでしょうか。



【付記】

ピカリングの元絵の出典は、S.Uさんによれば、ちょっと疑問符が付くようですが(コメント欄参照)、この絵はその後、A・スミスの『図解天文学』(1867)を経て、その邦訳である『星学図彙』(1871)として、日本にまで伝わっていました。
コピー文化は太平洋を越えて…という、ちょっと驚きの事実。

(出典:高橋健一(著)『星の本の本』より)

しかし、これを描いた日本の画工は、元絵が何を表現しているのか理解していたんでしょうか?何だか朦朧として、さっぱり分からない絵に仕上がっています(まるで温泉場の景色のようです)。

続 『少年天文読本』2013年07月12日 20時10分39秒

(昨日のつづき)

初版の扉絵は、また新版と違っていて、こんな絵になっています。


山中の不思議な天文台(構造的には無理がありますが)に集う4人。


左端のかっぷくの良い人物はヴィルマン先生で、その説明を熱心に聞いているのは、オットー、エドゥアルト、リヒャルトの3名の生徒たち。この本は、彼ら4人が会話をしながら、「第一夜」から「第十夜」まで夜話形式でストーリーが進みます。

(「第三夜」冒頭)

(星座を学ぶ「第九夜」)

内容は、上のサンプルページからも分かるように、オーソドックスな天文入門書なのでしょう(ドイツ語なので、内容は想像するしかありません)。
ただ、この本で「いいな」と思えるのは、ところどころに挿入されている砂目石版の挿図です。

(初版の表紙や、新版のタイトルページにもなった月夜の景色)

砂目石版というのは、文字通りザラッとした砂目が版面全体に散った、ややもすると雑な感じを与えがちな技法ですが、この本の挿絵には、むしろ非常に繊細な印象を受けます。



流星雨↑と月面図↓(全体と部分拡大)



どうでしょうか。文章を読めないのが至極残念ですが、なかなかいい風情の天文授業ではないでしょうか。不思議な天文台で過ごす「天文の夕べ」。
いかにも足穂的であり、長野まゆみ的であり、クシー君的でもあります。

(巻末に挿入されている折込星図)

(ちょっとしつこいですが、新版と旧版のツーショット)

隕石のアソート2013年05月14日 05時28分42秒

仕事を休んでコンコンと眠り続けたら(1日20時間以上)、元気が戻ってきました。
基本的に春先からの疲労がたまっていたのだと思います。
老婆心ながら、何となくだるい方、この辺で思い切って休養をとるのも手かと。

   ★

さて、以下は前回の記事から連想した話題です(日曜日に書きかけて、熱発により中断したので、URLが2013/05/12になっています)。

鉱物のちまちました標本セットは、理科趣味アイテムの定番で、これまで各国で膨大な種類と量が作られてきたと思います。このブログでも、戦前の尋常小学校用のセットや、東京サイエンスが販売している最近の製品、あるいはスイス製の鉱石・化石セットなど、何度か登場しています。

最近、その隕石版があるのを知りました。つまり、隕石(や隕石に関連して生成したテクタイト類)の小型標本を、ズラッと箱詰めにしたものです。
ふつうの鉱物標本セットも同様でしょうが、こういう品に対するニーズは、「子供の教育玩具」とか、「スノッブを気取る、珍しもの好きのお父さんへのプレゼント」なんかがメインで、本格的なマニアやコレクターは一顧だにしないものだと思います。

とはいえ、隕石セットは新機軸であり、「珍しもの好きのお父さん」の一人として、これを買わない手はありません。

(以下、ごちゃごちゃした暗い所で撮ったので、見苦しい写真で恐縮です)

外箱はレザーを模した紙製(約21×37.5センチ)、発売元はアメリカの望遠鏡メーカー、MEADE(ミード)社です。
上で「新機軸」と書きましたが、私がたまたま知らなかっただけで、コピーライト表示を見たら2005年とあったので、ミードから売り出されたのは、もう8年も前です。



パチンとスナップを開けると、中にはもっともらしい「鑑定書」(アメリカでは名の通った天文教育家、マイケル・レイノルズが署名しています)と、内容説明シートが入っています。


そしてこれが中身。


説明書によれば、内訳は石質隕石8種、鉄隕石6種、石鉄隕石4種、テクタイト4種、インパクタイト2種の合計24種類。それぞれ直径45ミリのプラスチック容器に納められ、白いスポンジの穴にはまっています


箱の裏の目立たないところに貼られたシール。
「MADE IN PRC」のPRCとは「People's Republic of China(中華人民共和国)」のことだと初めて知りました。ひょっとして「MADE IN CHINA」だと、市場で軽んぜられる…という配慮があったんでしょうか(←憶測です)。
このセットはアメリカの業者から買ったのですが、結局太平洋を行ったり来たりで、地球環境には優しくない買い物だったかも。

   ★

上で書いたように、ここに集められた標本群は、希少性や市場価値において、特に見るべきものもないでしょうし、鉄隕石や石鉄隕石の中には、だいぶ錆が出てしまったものもあります。

とはいえ、その1つ1つが遠い宇宙からのメッセージ。単純に「市場価値」ではかってよい相手とは思えません。いずれも惑星間の広大な空間を旅した末に、轟然と地球に落下し、ときにはその熱と衝撃で、地上の岩石をとろかすほどのエネルギーを放ったツワモノたちなのですから。

そしてまた、ケースに入った標本が、きっちりと行儀よく並んだ様には、標本そのものの価値以上に、理科室趣味の徒をひきつける何かがあると思います。

星のお菓子2013年05月11日 11時12分51秒


(PARLOR RED COMET のメニュー。 鴨沢祐仁・『クシー君のピカビアな夜』より)

蛍以下さんに、なんとも素敵なコメントをいただきました。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2012/03/29/6393910#c6805694
惑星を飴玉にするならば…という話題です。

蛍以下さんご自身は、「あまりしっくりこない」と言われながらも、下記のような提案をされました(蛍以下さんの苦心については、コメント欄でご確認を)。

 水: 水色でラムネ 
 金: オレンジ
 地: 青と白のマーブル(ソーダとミルク)
 火: 赤でイチゴ味
 木: チョコバナナ味
 土: 緑でメロン
 天: 黄緑でマスカット
 海: ソーダ
 冥: 薄荷
 太陽: パイン
 月: レモン


しっくりこないどころか、なかなかどうしてピッタリのラインナップではないでしょうか。

   ★

この話題は、稲垣足穂の「星を売る店」を、ただちに連想させます。
神戸の山ノ手のとある街角で、青く輝くショーウィンドウに目をとめた主人公。不思議に思って近づいて見ると…

「何と、その小さいガラス窓の内部はきらきらしたコンペイ糖でいっぱいではないか!
 ふつうの宝石の大きさのものから、ボンボンのつぶくらいまで、色はとりどり、赤、紫、緑、黄、それらの中間色のあらゆる種類がある。これが三段になったガラス棚の上に乗せられて、互いに競争するように光っている。」

店員に問いただすと、その正体は紛れもなく本物の星だという話。世界でいちばん天に近い、エチオピア高原の某所で、現地の男たちが先に袋のついた長い竿で集めたもので、エジプト政府も承認済みの確かな品だと言います。

この星はカクテルに入れてよし、粉末にしてタバコに混ぜれば、「ちらちらした涼しい火花が散って、まことに斬新無類の夏向きのおタバコ」にもなるし、さらにフラスコに入れて加熱し、その蒸気を吸えば「オピァムに似た陶酔をおぼえ、その夢心地というのがまことにさわやか」という、ちょっと怪しげな代物。
その味わいは「紅いのはやはりストローベリ、青いのはペパーミント。みどり色のは何とかで、黄色はレモンの匂いと味とに似かよっている」と言います。

個々の惑星に対する言及こそありませんが、「星を食べる」という文学的趣向は、足穂の創案になるものと思います。

   ★

さて、現実世界に存在する惑星キャンディとはどんなものか。
蛍以下さんは、かつて『月間天文』誌の広告で、それらしい品を見た記憶があると書かれています。それがどんなものだったか、今検索した範囲では分かりませんでしたが、その代わり以下のようなページを見つけました。

太陽系のキャンディーが登場し話題に!!
 太陽系8惑星+冥王星と太陽の10本セットで約1400円で発売
 http://irorio.jp/sousuke/20120910/27386/

内容は、Vintage Confectionsというアメリカのお店が、惑星の棒付キャンディを売り出したというニュースで、そのオリジナルの販売ページは以下(送料約25ドルで日本からも注文可能)。



なかなか美しいキャンディですね。
ただし、画像から判断する限り、これは食用インクを使ってプリントした惑星の写真を、透明なキャンディに埋め込んであるだけのように見えます。とすると、アイデア賞的な面白さはありますが、製菓技術として、格別ヒネリが利いているとも言い難い。
またお味の方は、上の日本語の記事には「綿菓子味とイチゴ味の2種類あるらしい」と書かれていますが、オリジナルページにはそういう記載がないので、全部同じ味なのかもしれません。

   ★

それよりもむしろ驚くべき製品は、上の飴玉の次に紹介されている、惑星モチーフのチョコレートです。こちらは日本のメーカーが販売しているもので、そのページは以下。

勝手キャプチャーで恐縮ですが、その美しいデザインと、ヒネリの利いたフレバーをぜひご覧いただきたい。


最初見たとき、私の惑星イメージとずれているものもあったのですが、でもこれはお手本とする画像によって、だいぶ変わってきそうです。たとえば、下の画像を見ると、このチョコの惑星たちは、むしろ至極リアルに造形されていることが分かります。


   ★

さらに、さらに、さらに驚くべき品は、同じメーカーが手掛けた「隕石チョコ」。

輝seki(きせき)隕石チョコレート8粒入
  http://www.melissa-ec.jp/products/detail.php?product_id=24

これは単に「漠然と隕石をイメージしたチョコ」ではなくて、隕石から発見された鉱物、「コスモクロア輝石」〔ウィキペディア〕と、世界7大陸で発見された実在の隕石7種をイメージして作られたという渋い、あまりにも渋すぎる品です。

以下に、その内容をそのままコピペさせていただきます。

Orgueil オルゲイユ隕石(ヨーロッパ大陸・フランス))
 1864年に落下。  最も大きい炭素質コンドライト。太陽系の初期の段階の様子をよく 保存しているといわれる。味:ビターチョコレート×カシス&マロン
Tatahouine タタフィン隕石(アフリカ大陸・チュニジア)
 母天体は小惑星ヴェスタだと考えられている隕石。1931年落下。味:ビターチョコレート×プラリネアーモンド
Henbury ヘンバリー隕石(オーストラリア)
 鉄隕石。鉄とニッケルの合金でできた宇宙の石。惑星の核部分と考えられている。1931年発見。味:ホワイトチョコレート×アプリコット&オレンジ
Pallasovka パラソフカ隕石(ユーラシア大陸・ロシア)
 鉄ニッケル合金とケイ酸塩化合物からなる隕石。1990年に発見。味:ビターチョコレート×プラリネヘーゼルナッツ
Kiseki 輝石に咲く華(コスモクロア輝石)をイメージ
 隕石より発見された初めての鉱物、「コスモクロア輝石」をイメージ。奇跡的に咲いた一輪の華。皆様に奇跡が起こりますように…。味:ホワイトチョコレート×グレープフルーツ&アールグレイ
Yamato86032 ヤマト86032隕石(南極)
 月は29億年前まで火山活動があり、新しい岩石が作られていた。原初の状態を保っている月隕石。味:ビターチョコレート×ブルーベリー&ホワイトバニラ
Canyon Diablo キャニオン・ディアブロ隕石(北米)
 隕石の研究により、クレーターは隕石衝突に起因するものと判明。19世紀発見。アリゾナ隕石孔のまわりで発見。味:ビターチョコレート×フランボワ&塩キャラメル
Allende アエンデ隕石(南米)
 太陽系成形の鍵を握る、初期太陽系星雲の凝縮物や星間微粒子が含まれている。味:ビターチョコレート×ピーチ&ドンペリニヨン

この商品を開発した人は、いったい何を考えているのでしょうか?
なぜここまで細部にこだわる必要があったのか?
もちろん、これが科学館のおみやげなら分かるのです。しかし、この品は一般に販売している、いわゆる「高級ショコラ」ですから、その辺がなんとも謎です。でも、私はこういう品が大好きなので、隕石チョコと、その作り手の方に最大級の賛辞を送ります。

流れ星の句と歌2012年08月13日 10時40分42秒

昨日の流星はどうでしたか?
私は酔眼だったので、まあ何でしたが、今日あたりもまだまだチャンスはありそうです。

   ★

今日の朝日俳壇・歌壇より。

○流星の先に猫ゐる異郷かな   (ドイツ)ハルツォーク洋子

金子兜太氏、大串章氏の共選句。
流星、猫、異郷の取り合わせが、凛としたイメージです。

異郷(ドイツでしょうか)の建物が描くスカイライン。
その上空をスッと飛んだ流星。
視線を地上に戻せば、闇に佇む猫の瞳がふとキラリと輝いた…という情景でしょうか。

硬質な情緒をただよわせた佳句。
個人的に、この猫はターコイズの瞳を持った黒猫であってほしい。
(でも、実際の黒猫はゴールドの瞳のものが圧倒的に多いそうですね。)

(ドレスデンの夜景) 

○しんしんと流れ星ゆく蜩のひとしきり鳴きしあとのしじまへ 
(東京都)吉竹 純

永田和宏氏選。
先ほどまで鳴いていた蜩も声をひそめ、暮色のいよいよ濃くなった刻限。
空はオレンジから藍色へと変わり、星が静かに姿を見せ始める頃合いです。
そんな夏の宵空を、流れ星がかすめたのですが、作者はそれを「しんしんと」飛んだと感じ、またそれが周囲の「しじま」をいっそう深めたと言うのです。

美しいと同時に、哀切な印象も受ける歌です。
季節柄、盆の行事と故人への思いが背景にあるような気もします。

少年流星観測隊2012年08月12日 17時28分36秒

今宵はペルセウス座流星群の極大日。


上の画像は、パリの老舗百貨店「ラ・ベル・ジャルディニエール」(1824年創業)が宣伝用に作った、オリジナル絵葉書です。美しいカラーリトグラフ印刷で、時代的には1910~20年代のものでしょう。
「Astrnomie enfentine(子供の天文学)」というシリーズ物の1枚で、この葉書は「No.5 流れ星」と題されています。


全体は往復葉書のように、2枚で1セットになっています。下の葉書には色がついていませんが、これは上の絵を見ながら、自分で色を塗って楽しむためのものです。つまり、この絵葉書は「天文カード」、「塗り絵」、そして「はがき」の一石三鳥の役割を果たす優れもの。


「おい、早く、早く!」
「あ、あそこ!」 「こっちも!」
「!!」

涼しげな水辺の館で流星を観測する子どもたち。
身を乗り出し、食い入るよう空を見上げるポーズが、とてもリアルです。

もちろん実景ではないでしょうが、カード左下の説明文には、11月14日(しし座)と、8月10日(ペルセウス座)の流星群が特に言及されているので、あるいは後者をイメージした絵かもしれません。(服装も夏向きですし。)

さて、天気もまずまず、今夜は美しい流れ星の尾がいくつ見られるでしょうか?


付記

以下、蛇足ながら「ぬり絵」の話。
児童書の1ジャンルである、ぬり絵本(painting book、coloring book)」は、美術教育の民主化が叫ばれる中、1880年代のアメリカで生まれ、その後、商売向きの広告媒体や販促グッズとしての役割も果たすようになった…ということが、英語版ウィキペディアの「Coloring book」の項には書かれていました。

下はイギリスの某古書店のサイトから寸借した、1891年にロンドンで出たぬり絵本。


ごらんのように、日本のぬり絵とちょっと違うのは、子どもが自由に色を塗るのではなくて、カラー図版と線描図版を並べて、お手本を見ながら色を塗るという形式をとっていたことです。上のフランスの絵葉書もこういう文脈で作られたのでしょう。