古玩談義~アンティークとは何か(5) ― 2007年11月12日 20時19分20秒
(↑アンティークか? ヴィンテージか? 1955年のSky & Telescope 誌の広告)
先ほど帰還しました。
ハーシェル協会の年会については、協会HPでお伝えするとして、このブログでは、旧東京天文台ツアーや、上野の国立科学博物館の日本館の話題などを、いずれ載せたいと思います。が、とりあえず標記連載の途中なので、記事を続けます。
★ J.A.氏
私は「ヴィンテージ」という語は、「アンティーク」という語より、もうちょっと新しいものを指すように思っています。eBayやAstroMartで、いみじくも誰かが言ったように「私の靴より新しいもの」が「アンティーク」として出品されているのを見ると、何とも複雑な気分になりますし、時には出品者にメールすることもあります。15年か20年しか経ってない物をアンティークと名づけるのは不誠実のきわみだし、それ以上に馬鹿げている!と。
「アンティーク」という語が、アメリカではどうも濫用の気味があります。25年前の車をアンティークとみなす州があるのは事実にせよ、それは登録上の目的、すなわち手数料減額を正当化するためにすぎません。別の州では「歴史的自動車(historic vehicle)」等、別の用語を使ったりもしています。ドイツでは「古顔(Oldtimer)」という語を使います。これはドイツ語ではなく、英語の単語なので、変といえば変なんですが。(私自身は「クラシック」という語が好みです。)
「アンティーク」という語は、100年以上の物に限定して使うべきだというP.L.さんの意見には賛成です。
★★ B氏
野球用語でいうなら、私は一連の議論を、変化球でずばり仕留めようと思います。
ふつう、この種の話題がもちあがると、議論はカットオフポイントを確定することに集中しがちです。つまり、それより古ければ我々の守備範囲だが、新しければ他の人にお任せ、というような。そこで、100年という税法上の基準を奥から埃を払って引っ張り出したり、25年という自動車業界の基準を持ち出したり、あるいは「古い真鍮とガラスで出来たものでなければ…」という意見が開陳されたりするわけです。こうした基準はすべて主観的なものであり、それぞれ一長一短があります。私はここで全く別の観点を提示しようと思います。
私が一貫して抱く信念によれば、望遠鏡はそれが作られた歴史的文脈を通して見るべきであり、単にどれだけ古いかで見るべきではありません。望遠鏡をアンティークたらしめるものは何か、それを決めるのに歴史的文脈を用いるなら、モダンをアンティークから区別する唯一の時期を見出すことはしごく容易なことです。その時期に、急速で根本的な変革が生じ、素材と技術に一大飛躍があり、実地光学家と光学理論家とが完全に一体化したのです。その時期とは即ち20世紀半ばであり、主として第2次大戦で区分されます。私見では、戦前の物ならただちにアンティークと認めても差し支えないと思います。
技法も違ったし、素材も限られていました。また製造工程は単純で、生産量も少なかったのです。ツァイスのように、他の企業に先駆けて近代化を成し遂げた企業もありますが、いずれにせよ第2次大戦が終わるころには、「古風な方式’the old fashioned way’」で望遠鏡製造を続けるメーカーはほとんどありませんでした。この2つの時期をまたぐ望遠鏡メーカーの大半は、戦後になってから以前とは大いに異なる企業に変身を遂げました。
このメーリングリストやATSのメンバーの中には、「線引き」の時期として、もっと違った年代が適当とお考えの方もいるでしょう。是非ご意見を伺いたいと思います。
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■メモ■
アンティークの語義をめぐって議論百出の体ですが、このB氏の発言で、議論は徐々に収束点に近づきます。
(この項つづく)
先ほど帰還しました。
ハーシェル協会の年会については、協会HPでお伝えするとして、このブログでは、旧東京天文台ツアーや、上野の国立科学博物館の日本館の話題などを、いずれ載せたいと思います。が、とりあえず標記連載の途中なので、記事を続けます。
★ J.A.氏
私は「ヴィンテージ」という語は、「アンティーク」という語より、もうちょっと新しいものを指すように思っています。eBayやAstroMartで、いみじくも誰かが言ったように「私の靴より新しいもの」が「アンティーク」として出品されているのを見ると、何とも複雑な気分になりますし、時には出品者にメールすることもあります。15年か20年しか経ってない物をアンティークと名づけるのは不誠実のきわみだし、それ以上に馬鹿げている!と。
「アンティーク」という語が、アメリカではどうも濫用の気味があります。25年前の車をアンティークとみなす州があるのは事実にせよ、それは登録上の目的、すなわち手数料減額を正当化するためにすぎません。別の州では「歴史的自動車(historic vehicle)」等、別の用語を使ったりもしています。ドイツでは「古顔(Oldtimer)」という語を使います。これはドイツ語ではなく、英語の単語なので、変といえば変なんですが。(私自身は「クラシック」という語が好みです。)
「アンティーク」という語は、100年以上の物に限定して使うべきだというP.L.さんの意見には賛成です。
★★ B氏
野球用語でいうなら、私は一連の議論を、変化球でずばり仕留めようと思います。
ふつう、この種の話題がもちあがると、議論はカットオフポイントを確定することに集中しがちです。つまり、それより古ければ我々の守備範囲だが、新しければ他の人にお任せ、というような。そこで、100年という税法上の基準を奥から埃を払って引っ張り出したり、25年という自動車業界の基準を持ち出したり、あるいは「古い真鍮とガラスで出来たものでなければ…」という意見が開陳されたりするわけです。こうした基準はすべて主観的なものであり、それぞれ一長一短があります。私はここで全く別の観点を提示しようと思います。
私が一貫して抱く信念によれば、望遠鏡はそれが作られた歴史的文脈を通して見るべきであり、単にどれだけ古いかで見るべきではありません。望遠鏡をアンティークたらしめるものは何か、それを決めるのに歴史的文脈を用いるなら、モダンをアンティークから区別する唯一の時期を見出すことはしごく容易なことです。その時期に、急速で根本的な変革が生じ、素材と技術に一大飛躍があり、実地光学家と光学理論家とが完全に一体化したのです。その時期とは即ち20世紀半ばであり、主として第2次大戦で区分されます。私見では、戦前の物ならただちにアンティークと認めても差し支えないと思います。
技法も違ったし、素材も限られていました。また製造工程は単純で、生産量も少なかったのです。ツァイスのように、他の企業に先駆けて近代化を成し遂げた企業もありますが、いずれにせよ第2次大戦が終わるころには、「古風な方式’the old fashioned way’」で望遠鏡製造を続けるメーカーはほとんどありませんでした。この2つの時期をまたぐ望遠鏡メーカーの大半は、戦後になってから以前とは大いに異なる企業に変身を遂げました。
このメーリングリストやATSのメンバーの中には、「線引き」の時期として、もっと違った年代が適当とお考えの方もいるでしょう。是非ご意見を伺いたいと思います。
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■メモ■
アンティークの語義をめぐって議論百出の体ですが、このB氏の発言で、議論は徐々に収束点に近づきます。
(この項つづく)
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