製図の美学(2) ― 2013年09月08日 13時19分51秒
(昨日の続き)
それでは『新撰 製図用文字及図譜集』のページを繰ってみます。
まずは平凡なイタリック体の書き方から。
何ということのない字体ですが、フリーハンドで書く場合でも、細部の比をここまで意識しないと美しく書くことはできないのでしょう。この細かいグリッドを見ていると、「マス目が眼前に自ずと浮かんでくるまで、倦まず励めよ」という著者のメッセージが伝わってくるようです。
イタリック体からして既にかくの如し。さらに凝った書体については、いっそう懇切に書法が解説されています。それらを総合した作例が上の「Guide for LETTERING」。文字の周囲や内部を埋める装飾にも注目。
うっかりすると見過ごしがちですが、図面の片隅に控えている縮尺表示にも間違いなく「美」があります。
地形図の表現。荒地、草地、泥地、砂地…。
その場の光景を彷彿とさせるという意味では、地形図もまた一種の風景画なのかもしれません。
彩色図面の例。亀甲文字風のタイトルは、「Head of Connecting Rod」。
機械図面の彩色にもルールがあって、素材によって、色や陰影の付け方が決まっているらしいです。
電気回路の製図も解説されていますが、さすがに100年前なので、記号は少なめ(まだダイオードは発明されておらず、ラジオ開発の黎明期だった頃です)。
ごく真っ当な建築図面ですが、「ある医師の居宅平面図」ということで、1階には待合室や診察室が併設されています。
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というわけで、いろいろな図面を見てみました。
とにかく、これらの図面がすべて人間の手から生まれたものだというのが驚きです。
もちろん今ではCADを使って、どんな図面もディスプレイ上でスイスイ(?)描けるわけですが、製図ロマンという点では、製図板に大型の三角定規とT型定規、あるいは後続のドラフターに軍配を上げたいところ。まあ、あまり懐古的になってもいけませんが、人の手が引いた線には、やはりなにがしかの「味」があるような気がします。
…と言いつつも、この点はよくよく考えねばなりません。
というのは、昔、人の手を使って図面を引くしかなかった時代には、人の手による痕跡をとどめない「あたかも機械が描いたような図面」こそが美しいと、多くの人は思っていたかもしれず、「人の手を使って描いたものには味がある」というのは、現代人の無責任な感想に過ぎないかもしれないからです。
でも、一本の線にも「生きた線」と「死んだ線」があると言われると、たしかにそんな気もするし、人間の手わざには、簡単に言い尽くすことのできない秘密がまだまだあるのは確かでしょう。
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