ガリレオ時計(2)2014年07月28日 06時35分43秒

昨日の記事に、あの華麗なコメタリウムの作者であるSiiTaaさからコメントをいただきました(参照 http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/04/26/7294754)。
そして、SiiTaaさんご自身が、かつてトミーのギルドクロックシリーズの歯車製造を手掛けていらしたと伺い、世の中、どこでどうつながっているか分からないなあ…と驚きました。

   ★


改めて、これが全体の姿。この時計は時針のみで、分針はありません。


背後から見たところ。中央下部のつまみを回してゼンマイを巻きます。


ゼンマイを収めたケースだけが半透明のプラスチックで、あとは総金属製。
アストロラーベ風の文字盤のデザインといい、トミーとしては相当力を入れたであろう、凝った商品ですが、なんだか懲りすぎてちょっと変な気もします。

   ★

よく知られているように、ガリレオ(1564-1642)は、振り子の等時性を発見した人です。彼はそれを応用して、正確な時を刻む時計を作ろうと思いたち、そのラフスケッチを描き起こしたものの、自ら現物を製作するには至りませんでした。しかし、彼の死後、その図面を元にした時計が作られ、これを「ガリレオ時計」と称します。

(なお、歴史的に最初に振り子時計を作ったのは、ホイヘンス(1629-1695)で、1656年のこととされます。ホイヘンスは、振り子の等時性が、触れ幅が小さい時に限って、近似的に成り立つに過ぎないことを見抜いた人でもあります。)

振り子の等時性を時計に応用する…といっても、これはあらゆる振り子時計がそうですが、時計そのものが振り子の力で動いているわけではありません。時計全体を動かす原動力は、あくまでもゼンマイの復元力(きつく巻いたゼンマイがほどけようとする力)であって、ガリレオの巧みなアイデアは、ゼンマイのほぐれを一定ペースに保つ調速機構(脱進器)を、振り子とごく少数の機械部品で実現した点にあります。そのことは、この時計を見ているうちに、実感をもって納得できました。


振り子に合わせて脱進器が動作するときは、カッチカッチと結構大きな音がします。
家人はうるさがりますが、私にとって嫌いな音ではありません。むしろ懐かしい響きです。もちろんクルクル回る歯車の動きも面白く、この牢獄のような部屋にあって、彼は目と耳を慰めてくれる心優しい友人です。(…何だかずいぶん孤独な生活ですが、それでも多くの人とネットでつながっていられることは嬉しいことです。)


【付記】 ガリレオ時計のメカニックの詳細は以下を参照
歯車の役割 :手作り時計のJHA 時計作家 ks の時計ブログ(by 篠原康治氏)
 http://ameblo.jp/shinoharakoji/entry-10380265405.html
 …ページの下方に、ガリレオの脱進器についての説明があります。

コメント

_ S.U ― 2014年07月28日 08時07分26秒

振り子+ぜんまい時計の脱進機構については、ぜんまい側の力が振り子側に伝わって振り子の周期が変わるということは起きないのか、という疑問があります。

 昔、我が家(実家)に振り子式の柱時計がありましたが、ぜんまいのネジを巻いた直後はやや進み、いよいよ緩んでくると遅れました。ぜんまいが解けてしまうと振り子は停止しますので、ぜんまいが振り子に力を与えて振動を継続させていることは間違いないです。
 
 このぜんまいが振り子に力を与え、かつ、周期には影響しないようにするために、ガリレオやホイヘンスは何か工夫をしていますでしょうか。

_ 玉青 ― 2014年07月29日 07時43分18秒

再考のため、いったんコメントをリセットします。

_ 玉青 ― 2014年07月30日 06時07分07秒

以下は昨日いったん書いたコメント。

   +

おお、これは目からうろこです。

よくよく考えたら、振り子時計がカッチカッチと時を刻むとき、そこにはゼンマイ(につながったパーツ)が振り子(につながったパーツ)を叩いて、力を伝える音も混じっていたのですね。

>ぜんまいのネジを巻いた直後はやや進み、いよいよ緩んでくると遅れました。

ゼンマイが力いっぱいの時は元気に時を刻み、パワーが落ちてくるとノンビリになる…というのは感覚的に分かるのですが、でも、そのための調速機構のはずなのに変だなあ…と思って、ガリレオ時計をもう一回見たら、その理由がよく分かりました。

   +

…と、ここまで書いて、さらに自分なりの「答」を記したのですが、その後もういっぺんよく観察したら、それは嘘でした。その答は今も考究中で、これは夏休みの宿題にします(でも遊び呆けて忘れてしまうかも…)。

なお、「ぜんまいが振り子に力を与え、かつ、周期には影響しないようにする」という点についてですが、(ホイヘンスはよく分かりませんが)ガリレオ時計は、この点について、特に何の工夫もなさそうです。

_ S.U ― 2014年07月30日 19時52分13秒

 これはこれは難問にお付き合いいただくことになりまして恐縮です。また、おわかりになったときにお知らせ下さいますればありがたいです。

 実は、発端は素朴な疑問で、私は小学校低学年の時にうちにある振り子式柱時計が大好きで、父親がぜんまいのネジを巻くのをよく見ていました。子どものことですから時計の動きは単純にぜんまいが支配しているものと思っていました。

 ところが、振り子時計は振り子の周期という自然現象を利用していると聞き、その説明が疑問となりました。その後、振り子の等時性については理解しましたが、メカについては得意ではないので時計の仕組みの理解は現状もあまり進歩していません。

 ところで、私の記憶にある昭和の前半に作られたとおぼしき振り子時計は、ぜんまいを巻いた後数日間は、数日で2、3分進み、ぜんまいが解けて止まる直前の2、3日は、その間にやはり2、3分遅れるくらいであったと思います。ぜんまいの効力は2週間くらいでしたから大半の期間は安定していました。その後、1960年代に販売されていた日本の一流メーカーによる最終世代の量産型振り子時計(カレンダー付き)に買い換え、それは精度もぜんまいの持ちもずっと良かったと思います。

 でも、本当の振り子時計の最大の弱点は、金属の膨脹にあり、夏と冬で振り子の実効長が変わって周期が変わりました(夏は遅れ冬は進む)。これは半月で、2、3分くらいの効果があり、季節ごとに、振り子の長さを調整する必要がありました。

_ S.U ― 2014年07月30日 19時54分44秒

>ガリレオ時計は、この点について、特に何の工夫もなさそう

おっと、失礼しました。最後までちゃんと読んでいませんでした。
この脱進器の金具が2つに分かれているのは、あまり関係のある工夫ではないのですね。

_ 玉青 ― 2014年07月31日 07時00分14秒

私が子供の頃住んでいた家にあった振り子時計は、どうもゼンマイを巻いている光景が思い浮かばないので、電池式だったかもしれません。
あの音は今も耳に残っています(風邪で熱を出しているときなどは、ことに耳に付きました)。しかし、その構造に興味が向いたことはついぞなく、動力がゼンマイでも電池でも、そこに遅速が生じる理屈は同じはずですが、そのことも特に意識したことはありませんでした。まあ、鈍な子供だったのしょう。

>脱進器の金具

1つは歯車(ガンギ歯車)にかかったロックの解除用、もう1つは歯車を制動すると同時に、振り子が振れる力を得るためのものです。(したがって、記事中のリンク先の解説図に、「ガンギ歯車にエネルギーを伝える」とあるのは「ガンギ歯車からエネルギーを受け取る」の誤記かと思います。)

_ S.U ― 2014年07月31日 07時54分22秒

>鈍な子供
 おそらくそんなことはなく、戦後の振り子時計や電池時計は性能が上がって遅速が目立たなくなったのでしょう。私が気づいた時計は古い物でしたから。

>振り子時計~電池式
 最近の振り子時計は、電池式で電磁石の力で振らせているようですが、振り子は飾りです(時計は現在なら水晶時計ですが、私らの子どもの頃はテンプ式?)。電池の振り子式が昔からあったか知りませんが、音がしたのならぜんまい式ではないでしょうか。なんとなくですが、機械式で音が響くほどなら電池の消耗が激しすぎて一般には不経済ではないかと思います(今なら、音も電子式で「経済的」に鳴らせますが)。

 今でも工芸品のぜんまい式振り子時計は出ていますが、一般的に大量に売られていたのは、1960年代中葉までのことだと思います。私が振り子時計で注目したのは、ボンボンと鐘が時の数だけ鳴る機構で、これは、深いキザミ・浅いキザミの組み合わせが鐘の数だけ並べられた特殊なカムが用いられていました。また、古いほうの柱時計はぜんまいが左右に1つずつあって、振り子を振らせるぜんまいと鐘を鳴らすぜんまいが別々でした。

_ 玉青 ― 2014年08月02日 14時43分51秒

となると、あの時計はやっぱりゼンマイ式だったんでしょうか。
私の見ていないところで、祖父がせっせとネジを巻いていたのかもしれません。
しかし、今となっては、真相は闇の中です。
何せ、時計も、家も、町並みも、そして、あの時計の音に耳を澄ませた子どもすら消え去り、記憶の中にぼんやりと存在するのみなのですから。

_ S.U ― 2014年08月02日 20時07分36秒

>私の見ていないところで
 ゼンマイ式振り子時計のスペックには、8日巻、14日巻、30日巻等がありました(もちろん何日ごとにネジを巻くのかを表しています)。人の性格によって、止まってから巻く人と、止まる日が近づくとまだ動いているうちに巻いておく人とあったと思います。お祖父様のご性格はどちらでしたでしょうか。後者のほうだったら深夜か早朝に「見ていないところで・・・」だったかもしれませんね。(ちなみにうちは止まっているのが発見された後に巻くほうでした)。

 振り子時計振れて記憶の薄れゆく  S.U

_ 玉青 ― 2014年08月03日 11時56分52秒

白き卒塔婆に雷(らい)の音遠し  玉青

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