「星を売る店」のドアを開ける(4)…星を捕える人2015年06月26日 06時46分16秒

「星店」のショーウィンドウには、輝く星たちとともに、不思議なポスターが貼られています。

 うしろに色刷りのポスターが下っていた。アラビア風俗の白い頭巾と衣をつけた人物が五、六人集まって、かれらの頭上にある星屑を、先に袋がついた長い竿でかき集めているところである。これは御趣向だと思ったとたん、ルビーやエメラルドやトパーズやダイヤモンドをぶち巻いた画面の夜空に、次のような文字が白くぬかれていることに気がついた。

 Do you want to suspect This
 for a Moonshine?
  Sorry, Egyptian Government
  declare This is Innocent.

このポスターは、作品全体を通じて、非常に印象的なアイテムですが、同時にいちばんの難物です。頑張って探してはみたものの、このポスター自体、足穂の純粋な創作らしく、それらしい品を見付けることは、ついにできませんでした。

以下はeBayの商品写真(古い観光ポスターやら缶詰のラベルやら)を寸借して並べたものです。当時は商業美術の世界でも、ロマンチックなオリエンタル趣味が巾を利かせていたらしく、足穂もおそらくはこうした作風のポスターを念頭に、あのシーンを書いたのでしょう。


   ★

とはいえ、あのポスターを「星店」再現にあたって外すことはできません。

私が最終的に考えたのは、「アラビア風俗の白い頭巾と衣をつけた人物が五、六人集まって」いるシーンと、「頭上にある星屑を、先に袋がついた長い竿でかき集めている」シーンに分割して、それぞれにちなむものを並べることです。


たとえば「The story teller of the desert(砂漠の語り手)」と題された、古書の1頁。


あるいは、砂漠の野営シーンを描いた古い絵葉書(出版国不明)。


そして、星を捕る天使や妖精を描いたドイツの古絵葉書。
こうしたものを額に入れて棚に並べたら、一寸それらしくなるのではないか…という思いつきです。


さらにもう一つ、ぜひ飾りたいのがこれです。
流れ星の落ちる彼方を目指して黙々と進む、砂漠の民の一団。これもドイツの古絵葉書ですが、この文脈に置いてみると、いかにもこれから星を捕りに行く人々の姿を描いたもののように見えます。



(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2015年06月27日 04時58分00秒

いよいよ、敵の本丸にというか総本山の御本尊にというか肉薄してまいりましたね。
 
 でも、これだけはっきりしたイメージを持って探してもポスターの元絵がないとは! 有りそうで無いところが足穂の潜在感覚の具現化の偉業なのでしょうね。

 「砂漠の民の一団」の絵はいいですね。野尻抱影の本で読んだ、星を頼りに砂漠を旅するベドウィンの歌、「スハイルを正面に、アル・ゲディを馬のしりの上に」を思い出しました。

_ 玉青 ― 2015年06月27日 13時24分44秒

まあ、私がちょっと探して見つからないから存在しないと言い切るのも危険ですが、ただ、ポスターの様子も、例の初出形態と現行形態とではだいぶ変っていて、何かイメージ源はあったかもしれませんが、描写そのものは足穂の創意に依るところが大きかったように思います。

さて、いよいよ本丸の中に切り込みましたが、この先どうなりますか…

_ S.U ― 2015年06月27日 16時31分01秒

>足穂の創意
 そうなのだと思います。
 私のイメージにのぼるのは、どちらかというと、ミュシャとかピカソとか、足穂も関心があったであろうアール・ヌーボーの芸術性のある絵なのですが、こちらのほうでも特に類した絵が見つかるわけではありません。

 同時期の作品「黄漠奇聞」では、バブルクンドの兵士が三日月を槍で払い落とす印象深い描写があり、この頃の足穂は特に相当冴えていたのではないかと思います。

_ 玉青 ― 2015年06月28日 10時02分41秒

当時の足穂の「砂漠趣味」は良い味わいですね。
あれは、「黄漠奇聞」の最後に出てくるダンセイニの影響かもしれませんが、ダンセイニそのものを私は読んだことが無いので、これは今後の課題です。

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