ウラニアの鏡2020年07月04日 09時38分29秒

話題としては前回の続きですが、いきなり余談から入ります。

ウィキペディアには「ウィキペディア」という項目があって、その「記事の信頼性」という節【LINK】には、こう記されています。

 「ウィキペディアは信用に足る百科事典とは言い難く、ウィキペディアからの引用を学術関連のレポートに載せることは、そのレポートの信憑性そのものに疑問を持たせることでもある。」

まあ、自分で言うのですから、多分そうなのでしょう。
ただ、より正確には「玉石混交」というのが正しいかもしれません。中にはなかなか為になることも書かれていて、今回は大いに助けられました。ウィキペディア、侮るべからず。

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さて、本題です。
天文アンティークの世界も広いですが、そうした多くの品々の中に、一種の定番といえるアイテムがいくつかあります。19世紀における天文学の大衆化の実例として、そしてモノ自体にあふれる魅力で、本やネットに登場する機会の多い『ウラニアの鏡』(1825)も、その一つです。

この美しい星図カードは、13年前にいち早く『天文古玩』にも登場しています。

■『ウラニアの鏡』
■『星の小箱』(以下のリンクページから4回連続で取り上げました)

以前の記事で書いたように、『ウラニアの鏡』は2度にわたって復刻版が出ていて、現在でも簡単に手に入ります(ひとつは1832年のアメリカ版初版を底本にした『Night Sky』(Barns & Nobel、2004)、もうひとつは底本不明ですが、『The Box of Stars』(Bulfinch Press(米)/Chatto & Windus(英)、1993)です)。

(『The Box of Stars』)

ですから、普通に考えれば復刻版を手元に置いて、それで十分満足すべきところですが、ここで私の内なる本物嗜好がうずくのです。と言って、「よし、あの『ウラニアの鏡』の本物を絶対手に入れるぞ!」と、勇んで探索したわけではありません。探索すれば本物が売られているのはすぐ分かるし、「ああいいなあ…」とは思いますが、お値段がどうしようもないので、そこで触手が動くことは、さすがにないのです。

でも、その不完全なセットが、お値打ち価格で売られているのを見たら…?
実際に売られていたのは、32枚セットのうちの24枚のみ(8枚欠損)で、箱も解説もないという「裸本」でした。

「陶片趣味」「残欠趣味」が燃え盛るのは、こういうときです。
「たしかに不完全には違いない。でも、これぞあの『ウラニアの鏡』のホンモノだぞ。どうだ、この紙といい、刷りといい、彩色といい、19世紀の天文趣味の香気がばんばん伝わってくるじゃないか!」…という内なる声に抗うことは難しいのです。

それに、その品にはもうひとつ「ある特徴」がありました。


星座名に注目してください。そう、この品は『ウラニアの鏡』のフランス語版だったのです。同書にフランス語版があったとは知りませんでしたが、そのこともユニークコピー的な“珍品”のオーラを放っていました。

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しかし、もう一度現品をしげしげと見て、オリジナルとの違いに気づきました。
星座絵の周りがスカスカで、周囲の星が欠落しているのです。

(左:フランス語版、右:『Box of Stars』より)

「あれ?」と思いました。そして、「ひょっとして海賊版?名にし負うベルギー版か?」と思って、この品はしばらく放置されていました。でも、ここに来てウィキペディアの出番です。

ウィキペディアに『ウラニアの鏡』が項目立て【LINK】されているのに気づいたのは、つい最近です。内容はほぼ英語版からの和訳ですが、それにしても日米のウィキペディアンの活動にこうべを垂れざるを得ません。

そこには、『ウラニアの鏡』が、1824年暮れに広告を打って販売が開始されたこと、少なくとも4回版を重ね、最終版は1834年に出たこと等、詳しい書誌が記されていました。そして注目すべきは、「初版では星座の周りに星々は描かれておらず空白になっているが、第2版では星座を囲むように星々が描かれた」という記述。

なるほど、フランス語版はこの初版を元に作られたのだな…と見当が付きました。もちろん、そのことで海賊版の疑念が払拭されたわけではありませんが、少なくともその素性の一端は分かりました。

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「たしかに不完全には違いない。でもどうだ、この紙といい、刷りといい、彩色といい、19世紀の天文趣味の香気がばんばん伝わってくるじゃないか!」


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