リアル天文趣味…か……2013年12月03日 21時53分30秒



再読中。

■チャールズ・レアード・カリア(著)、北澤和彦(訳)
 『ぼくはいつも星空を眺めていた―裏庭の天体観測所』
 ソフトバンク・クリエイティブ、2006

初読の際の感想は以下。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/12/10/992312

   ★

小さな頃から天体観測に熱中していた少年。
彼は当然のように天文学者になることを夢見ていましたが、ハイスクールのとき突如文学に目覚め、天文から心が離れていきます。あれほど大事にしていた望遠鏡も、天文関係の本も、一切合財知り合いに譲り渡して…。

彼はやがて結婚し、父親となり、住宅ローンを抱え、その身辺には平凡な日常が流れていきます。そんなある日、娘の一言から空を見上げた彼は、すっかり忘れていると思った星座を、すべて娘に説明してやれる自分に気づきます。その経験が彼の心に火を点け、彼がふたたび望遠鏡を、さらに自分だけの観測小屋を手に入れることを決意するまでに、大して時間はかかりませんでした。

   ★

これは多くの天文中年がたどった道であり、また天文以外の趣味の分野でもありがちな、ある意味普遍的なストーリーだと思います。しかし、その心模様をこれほど生き生き綴ったノンフィクション作品は稀有ではないでしょうか。
通勤電車の中で読んでいると、私の心にもリアル天文趣味に回帰したいという気持ちが、じりじりと押し寄せてくるのを感じます。

しかし―。地下鉄の駅から地上に一歩出れば、足元にはナトリウム灯、水銀灯、蛍光灯が作り出す濃い影がくっきりと落ち、大通りにはヘッドライトとテールランプが列をなしています。そして「やっぱりダメだな…」と呟く自分がいます。裏通りに入って、ようやく1等星が見えてくるという環境ですから、正直、天文趣味もヘチマもない感じです。

   ★

そんなわけで、結局は天文古玩趣味にすがるしかないのですが、今回この本を再読しようと思ったのは、実はそっち方面の関心が影響しています。というのは、この1958年生まれの著者の体験のうちには、一般の人とはいくぶん違った要素があって、そのことがフト気になったからでした。

(この項つづく)

コメント

_ さゆ ― 2013年12月03日 22時42分26秒

表紙が素敵ですね。膝突いてファインダ覗いたかなーっていつも心配(?)になりますが。 “あの”お母さんの遺品の中にアレが・・・ってエピソードがなんともいえず、心に残ってます。

_ とりかわつくね ― 2013年12月04日 01時00分27秒

玉青氏の紹介される本は今も買える本もあるので、同じ理科趣味愛好家としてとても嬉しいです。
確かここで知ったと思うのですが、石田五郎氏の「天文台日記」もとても良かったです。学者らしい文章もあり、それでいて星をあれほど詩的に表現されているところが好みでした。
私も部屋からは月と金星と一部の一等星が見える程度なので天文趣味本は増える一方です(笑)。

ところで。玉青氏はコマツシンヤさんという漫画家兼イラストレーターの方の著書を読まれたことはありますか?単行本が2冊、「8月のソーダ水」「睡沌気候」というのが出ているのですが、特に「睡沌気候」は空から電球が降る話、「地盤竜」と呼ばれる巨大な化石を発掘する話など、理科的なモチーフやテーマが至る所に散りばめられています。
玉青氏はコミックはあまり読まれないような気が致しますが、非常に安価な本ですのでご興味がありましたら是非。作者さんのページにサンプルも確かあったと思います。

_ かすてん ― 2013年12月04日 07時52分41秒

私も天文復帰直後にこの本を読んでいました。買ったきっかけはさゆさんも書かれている様に、表紙が綺麗だったのが理由。ところが感想は?なんですよね。
http://kasuten.blog81.fc2.com/blog-entry-208.html

年令もほぼ同世代だったり、スライディングルーフの観測小屋を1年がかりで作ったりと、その後自分も同じ道を辿る様になろうとは、読んだ当初は思ってもいませんでした。もう一度読んでもいいかも。

_ 玉青 ― 2013年12月04日 20時14分48秒

〇さゆさま

おお、今回も鋭いですね。
そう、私が気になったのは、ズバリ‘あの’お母さんのことです。
いかにも不思議なお母さんですよね。
そしてあのエピソードにも泣かされました。

〇とりかわつくねさま

つくねさんも、紙上の星を追っている口ですね。お互い切ないですねえ…;
でも、都会でも星は「見えない」だけで、確実にそこに「在る」のですから、せいぜい想像力を働かせて、星ごころを失わないようにしたいものだと常々思っています。

石田五郎氏、コマツシンヤ氏、いずれもそんな星ごころを甦らせてくれる、素敵な本たちですね!コマツさんの2著は私も大好きです。(『睡沌氣候』については、たしか以前記事でも取り上げた記憶があります。…と思って検索したらこちらでした。http://mononoke.asablo.jp/blog/2012/01/12/6286464

○かすてんさま

なるほど、これは普遍的な名著というより、読者の心理状態によって印象がかなり変わる本かもしれませんねえ。今の私にアピールしたのは、天文の話題そのものよりも、著者がかなりの紙数を費やしている家族の思い出が心に響いたような気がします。
それにしても今回再読したら、かすてんさんのことが真っ先に脳裏に浮かびました。(^J^)

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