カテゴリー縦覧…天文古書編:ニコル著『宇宙の構造』(1)2015年02月11日 18時06分56秒

ブログのネタはなかなか尽きませんが、どうも普通に書いていると、日常的な小ネタに偏りがちなので、少し意識的に話題に枠をはめたほうがいいのではないかと思いました。で、一番単純な方法として、左欄に挙げられた記事のカテゴリーを順番に取り上げて、これまで登場の機会がなかった品に光を当ててみようと思います。

まずは普通に天文古書から。

   ★


John Pringle Nichol
 The Architecture of the Heavens.『宇宙の構造』
 Hippolyte Bailliere (London), 1851 (第9版)
 八折版、300p.

ジョン・プリングル・二コル(1804-1859)は、スコットランドの教育家・天文家。天文家としての彼は、研究者であるよりも、まず啓発家であり、その方面で同時代に影響力がありました。

この『The Architecture of the Heavens』もその一冊です。(なお、彼には、『Views of the Architecture of the Heavens』という似た題名の著作もありますが、内容も体裁も異なるので、購入の際には注意が必要です。)


この本は、その図版をぜひご覧いただきたいのですが、その前に、装丁の魅力にも触れておきます。




見事な空押しの革表紙に三方金、鮮やかなマーブルの見返しという造本は、相当凝っています。


これほど装丁にお金をかけたのは、この本が著者ニコルから親しく献呈されたものだからと想像します(献じられた人の名前は William Beaumont Esq. と読めますが、何者かは不明)。


その後、何人もの人の手を経て、最後はダラムの古書店から私の元にやってきました。


この著作は19世紀最大の巨人望遠鏡を建造した、アイルランドのロス伯爵(ウィリアム・パーソンズ)の夫人に捧げられています。ロス伯爵も当時はまだ存命ですが、あえて伯爵夫人に捧げたのは、それが往時の紳士のたしなみなのでしょう。

(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2015年02月11日 21時23分34秒

立派な本を相手に些末な点の質問で申し訳ないのですが、
背表紙に複数ある蔓草か果実のようなマークは、何という名前で何を意味しているのでしょうか。ご存じでしたらよろしくお願いします。(ご存じでなければ、うっちゃっていただいて問題ありません)

 実は、これによく似たマークを、最近、別種の図書でしばしば目にするものですから…

_ 玉青 ― 2015年02月13日 06時30分30秒

いやあ、全く見当が付きませんので、「うっちゃって」おくことにします。(笑)
(図案事典の類を見ると分かるかもしれませんが…)

_ S.U ― 2015年02月13日 07時38分04秒

 妙な質問でどうも失礼しました。(妙な質問は今に始まったことではありませんが・・・)

 私が言ったのは米国物理学会の論文誌にあったものです。おそらくエディタが用意した論評の存在に関連するマークとして使われているみたいです。下のページに(小さいですが)あります。特に深い意味はないようですね。

https://journals.aps.org/prl/edannounce/PhysRevLett.98.010001

 最近、Googleで類似画像検索ができるようになったのを思い出して探してみました。今のところ、米国物理学会論文誌のほかは、フランスの会社(宅建業者?)のシンボルマークが引っかかっただけです。

http://www.cepage-immobilier.com/

このへんでうっちゃっておいて下さい。

_ 玉青 ― 2015年02月14日 10時25分39秒

いやあ、うっちゃっておけ…と言われると気になるものですね。

一連の絵はvine(一般に「つる草」、あるいは特に「ぶどうの木」)の図案ではないかと思うのですが、そのシンボリズムを辞典で調べたら、豊作、復活、友愛、歓喜、寛大、幸福、真実、信心…などが挙げられていました。日本の松竹梅の如く、西洋においては吉祥紋様ということで、いろいろな場面に顔を出すのでしょう。

なお、今回初めて知ったのですが、蔦(ivy)と葡萄(grape)は象徴学的に重なる部分が多くて、例えば両者はいずれもディオニュソスに縁がある…というわけは、葡萄はもちろん、昔はツタからも酒(ビール)を造ったからで、ツタから醸造したビールは、今でもオックスフォードのトリニティ・カレッジで愛飲されている由。何だかにわかに信じがたいですが、お味の方はどうなんでしょうね。

…と、これまた余計な方向に話の蔓を伸ばして申し訳ありません。

_ Ha ― 2015年02月20日 01時48分58秒

毎度ながらコメントが遅くて申し訳ありません。

❦(←文字化けするかも?)
この記号は、装丁や章の区切りなどに使う花模様(fleuron)の図柄のひとつで、ヘデラ(セイヨウキヅタ)をシンボル化した装飾記号ではないかと思います。
<punctuation, hedera, ivy-leaf>
の3つのキーワードで検索していただくと、英語Wikiのページなど、いろいろ出てきます。

❦❦
英語Wikiの「Fleuron (typography)」の項には、Unicode(UTF8/16)のフォントも紹介されていますが、フォントの名称は「floral heart」と言うようですね。(もちろん現代における呼び名ということになります)
 U+2766:floral heart
 http://www.charbase.com/2766

❦❦❦
以下の日本語ページも分かりやすいと思います。
http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~rhotta/course/2009a/hellog/2012-10-22-1.html

_ 玉青 ― 2015年02月20日 06時33分17秒

やった、ビンゴ!!!!
その名称、由来が分かってスッキリしました。どうもありがとうございました。<(_ _)>
まこと先達はあらまほしきもの哉。

 ❦

それにしても、かつて句読点に使われた記号だとは、まったく予想できませんでした。
そこから派生して、後世、章題のマーキングやテクストの区切り、あるいは純然たる印刷上の装飾として用いられるようになった…ということのようですね。

 ❦

あとは、そもそもなぜツタの葉っぱが句読点に用いられたか?が残された謎ですが、それもおいおいレッツ解明と参りましょう!!

_ S.U ― 2015年02月20日 07時54分59秒

Ha様、玉青様、
疑問解明、ありがとうございます!!

 へぇ❦句読点だったのですか❦ ユニコードになっているということはいわゆる約物の一種なのですね❦

 なぜツタの葉っぱが句読点に用いられたか?❦
 文章の切れ目で一息入れて❦このへんでツタ酒か果実酒を一口召し上がれ❦という意味かも❦

_ 玉青 ― 2015年02月21日 15時17分07秒

あはは。ツタは酒の原料になると同時に、プリニウスによれば飲み過ぎの薬だそうで、呑み助にとっては実に心強い味方です。それかあらぬか、ツタは死と復活の象徴でもあり、読んでは呑み、醒めては読むの句読点にはピッタリかもしれませんね。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック