ジョバンニが見た世界…ついに見つけた星座の掛図 ― 2012年12月08日 18時06分01秒
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、
乳の流れたあとだと云われたりしていた
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」
先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、
上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、
みんなに問をかけました。 (「一、午后の授業」より)
★
「ジョバンニが見た世界」でまず取り上げたいのは、物語のいちばん最初に登場する星座の掛図です。
思えばこの話題、これまでにもずいぶん取り上げました。
例えば、賢治が子ども時代に目にした掛図はわりと小ぶりだったはずで、ここでいう「大きな」というのは、ある程度留保が必要だろう…とか(LINK)、あるいは、賢治がイメージしたのは、当時、日本天文学会が出した星座掛図らしい…とか(LINK)、はたまた、作品世界にふさわしい品として、19世紀にパリで出た天文掛図ではどうか…とか(LINK)、その他もろもろ。
しかし、肝心の円形星図の掛図(※)というのが、いかにもありそうで無くて、そこで話題は先細りになったのでした。
(※)ジョバンニは、時計屋の店先で星座早見盤を見て、授業で使った掛図を連想しました。裏返せば、授業で使ったのは、早見盤を大きくしたような図であったはずです。
乳の流れたあとだと云われたりしていた
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」
先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、
上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、
みんなに問をかけました。 (「一、午后の授業」より)
★
「ジョバンニが見た世界」でまず取り上げたいのは、物語のいちばん最初に登場する星座の掛図です。
思えばこの話題、これまでにもずいぶん取り上げました。
例えば、賢治が子ども時代に目にした掛図はわりと小ぶりだったはずで、ここでいう「大きな」というのは、ある程度留保が必要だろう…とか(LINK)、あるいは、賢治がイメージしたのは、当時、日本天文学会が出した星座掛図らしい…とか(LINK)、はたまた、作品世界にふさわしい品として、19世紀にパリで出た天文掛図ではどうか…とか(LINK)、その他もろもろ。
しかし、肝心の円形星図の掛図(※)というのが、いかにもありそうで無くて、そこで話題は先細りになったのでした。
(※)ジョバンニは、時計屋の店先で星座早見盤を見て、授業で使った掛図を連想しました。裏返せば、授業で使ったのは、早見盤を大きくしたような図であったはずです。
★
しかし、思う念力岩をも通す。多年の探索の末に、やっと出会ったのが下の品。
残念ながら、黒くはないです。それに銀河の流れの向きも、上下ではなく左右です。
しかし、作品世界の具象化として、100点満点とは言えないまでも、80点ぐらいは与えてもいいかな…と個人的に思っています。
★
この品は、19世紀創業のドイツの老舗教育出版社 Westermann が出した、
H.Hagge(著) 『我が国から見える星空(Sternenhimmel unserer Heimat)』
と題する掛図。
ドイツの学校では長期にわたって使われたらしく、検索してみると1920年代から60年代あたりまで流通していた形跡があります。手元の品に関して、売り手は1930年代頃のものとしていましたが、印刷の加減や、木製ロッド(軸)の感じから、確かにその頃のものと見てよいのかもしれません。
(古びた軸とラベル)
こうして見上げると、確かに大きいです。高さは約120センチ、幅は約95センチ。
これなら教室の後ろからでも、白くけぶった銀河帯がハッキリ見えたことでしょう。
星図のアップ。理科趣味が漂うクールな星座表現。朱を点じたのは変光星です。
この掛図、上では80点を付けましたが、実写版モノクロ映画の小道具としてならば、95点を付けてもいいかもしれませんね。
(なんとなくつづく)
コメント
_ S.U ― 2012年12月09日 06時07分53秒
_ 玉青 ― 2012年12月09日 17時36分49秒
>何度目の再開
はて、もうそれも思い出せないぐらいです。
そもそも、このブログが始まったのは2006年1月23日ですが、それから間髪を入れず、1月25日の記事で、自分は「銀鉄」を引用しながら、こんなことを書いています(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/25/)。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
『銀河鉄道の夜』の有名な冒頭部。「白く銀河のけぶる黒い星図」「博士の書斎」「銀河の美しい写真の載った巨きな本」「光る砂粒の入った凸レンズ型の銀河の模型」…こうしたアイテムに私の趣味嗜好は強くひかれるのです。作品全体のテーマから外れて、細部を偏愛するというのは邪道かもしれませんが。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
「午后の授業」に続いて、愛らしい天文アイテムの出てくる章。こんなショーウィンドウがあったら、ジョバンニならずとも、釘付けになってしまいそう。これを実物で再現できたらいいですね。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
それ以来、延々とこの企画は続いているので、年明けには満7年になります。
本当だったら、ジョバンニもそろそろ大学生になるか、おっかさんを助けてバリバリ働いているころでしょうかねえ…
>芸術的技法
おお、この掛図を高く評価していただき嬉しいです。
たしかに、近くで見るとポコポコして、ちょっと違和感があるのですが、遠目だといい具合に煙った感じになりますね。原画を描いた人が、その辺を意識していたなら、なかなか見事な計算です。
さて、活字の件。
他ならぬS.Uさんのご依頼ですから、遠からず記事化できるよう心掛けてみます。
しばしお待ちを。
はて、もうそれも思い出せないぐらいです。
そもそも、このブログが始まったのは2006年1月23日ですが、それから間髪を入れず、1月25日の記事で、自分は「銀鉄」を引用しながら、こんなことを書いています(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/25/)。
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『銀河鉄道の夜』の有名な冒頭部。「白く銀河のけぶる黒い星図」「博士の書斎」「銀河の美しい写真の載った巨きな本」「光る砂粒の入った凸レンズ型の銀河の模型」…こうしたアイテムに私の趣味嗜好は強くひかれるのです。作品全体のテーマから外れて、細部を偏愛するというのは邪道かもしれませんが。
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「午后の授業」に続いて、愛らしい天文アイテムの出てくる章。こんなショーウィンドウがあったら、ジョバンニならずとも、釘付けになってしまいそう。これを実物で再現できたらいいですね。
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それ以来、延々とこの企画は続いているので、年明けには満7年になります。
本当だったら、ジョバンニもそろそろ大学生になるか、おっかさんを助けてバリバリ働いているころでしょうかねえ…
>芸術的技法
おお、この掛図を高く評価していただき嬉しいです。
たしかに、近くで見るとポコポコして、ちょっと違和感があるのですが、遠目だといい具合に煙った感じになりますね。原画を描いた人が、その辺を意識していたなら、なかなか見事な計算です。
さて、活字の件。
他ならぬS.Uさんのご依頼ですから、遠からず記事化できるよう心掛けてみます。
しばしお待ちを。
_ S.U ― 2012年12月09日 18時30分49秒
>それ以来、延々と
これはもう「天文古玩」の歴史とともにあると言っても過言ではないですね。
>当時の新聞活字
失礼しました。今、『銀河鉄道の夜』のその行を読んでみますと、活版所となっていて別に新聞活字とは限らないようです。地方都市で毎日のアルバイトなら新聞である可能性が高いとは思いますが、それに限定することはないですね。お取り上げのご配慮どうもありがとうございます。私に立派な体験や見識があるわけではありませんので、いつでもできるときでけっこうです。
これはもう「天文古玩」の歴史とともにあると言っても過言ではないですね。
>当時の新聞活字
失礼しました。今、『銀河鉄道の夜』のその行を読んでみますと、活版所となっていて別に新聞活字とは限らないようです。地方都市で毎日のアルバイトなら新聞である可能性が高いとは思いますが、それに限定することはないですね。お取り上げのご配慮どうもありがとうございます。私に立派な体験や見識があるわけではありませんので、いつでもできるときでけっこうです。
_ 玉青 ― 2012年12月10日 21時43分05秒
活字の世界を今覗き見していますが、なかなか奥が深く、改めて瞠目しています。…と言っても、私の方も見識に関してはさっぱりですので、あっさり流すぐらいで終わるかもしれません。
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このドイツの星座掛図の銀河の表現は、白団子のような大粒を用いたグラディエーションで、これを遠くから見るとうまくけぶったように見えるのでしょうね。左甚五郎やエル・グレコは寺社に芸術作品を納める際に拝観者の視線を最大限に考慮したと言われていますが、掛図にもそういう芸術的技法があったのかもしれないと思いました。今日の我々は、印刷資料もホールでの発表用も同じ図をパワポで利用しますが、反省すべき点があるかもしれません。
さて、ちょっと先取りになっていると申し訳ないですが、「ジョバンニグッズ」で、当時の新聞活字はお持ちあるいは紹介されたということがありますでしょうか。私は、小学校時代に金属製の新聞活字を見ていいなあと思ったことがあったので、可能でしたらくお取り上げお願いします。