パラドックス・オーラリー(1)2014年11月29日 13時05分25秒

暗いニュースが多いですね。
労働も、福祉も、教育も、社会が根っこから崩れる寸前のような感覚に襲われます。なんだかローマ帝国崩壊に際会した人のような気分です。もちろん国破れて山河あり、国家が破たんしても自然は変らずそこにありますし、その中で人間の営みも、形を変えながら続いていくのでしょう。であればこそ、国を破るだけではあきたらず、山河までも破りかねない政策には強く異を唱えたいです。

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さて、先日オレゴンから届いた品物の話のつづき。


彼の地のドネリーさんから送られてきたのは、同氏が製作したオーラリーでした。
この美しい製品は、18世紀の科学機器製作者、ジェームズ・ファーガソン(1710-1776)の手になる品が元になっており、それを復元したレプリカです。世間にオーラリーは数々あれど、このオーラリーはかなり異色のタイプなので、その点に少し字数を費やします。

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太陽、地球、月。
この3つの天体の動きを、歯車でどうシミュレートするか?
もちろん完璧に再現するのは困難ですが、その一部の要素だけでも再現したいと思ったとします。その場合、いちばん簡単なのは、下のような三球儀式のテルリオンです。


長い回転アームの先に地球が付いていて、さらにその周りを月が回るように仕組んであるというもの。写真のものは、地球の自転を表現するために、アームの先端にも歯車が付いています。

しかし、厳密に考えると、ここから洩れている要素はたくさんあります。

まず月の公転面と地球の公転面は微妙にずれています。角度にして5度余り。
つまり、地上の我々から見ると、太陽は1年、月は約27日かけて天球をぐるっと一周しますが、その軌道(黄道と白道)はピタッと重ならずに、5度余りはすかいになっているわけです。

そして黄道と白道が交わる2つの点(昇交点と降交点と呼ばれます)自体、ゆっくりとその位置を変え、18年余りかけて天球を一周します。

さらに、地球と月の公転軌道は円ではなく楕円です。まあ、前者はほぼ円と言ってもいいぐらいですが、月の軌道の方は結構ひしゃげていて、地球に接近した状態で満月を迎えると「スーパームーン」と話題になるぐらい、目に見えて明るく感じられます。

かてて加えて、地球ばかりでなく、月も自転しているし(太陽も自転しています)、その自転軸も公転面に対して垂直ではなくて傾いている…となると、この3つの天体に限定しても、それぞれの動きを忠実に再現するのがいかに困難か、想像がつこうというものです。

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18世紀のファーガソンが、それについて一定の答を出したのが、この「パラドックス・オーラリー」です。これのどこがパラドックスなのか、製品の細部と併せて、次回見てみます。


(この項つづく)

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