ソォダ色の少年世界…カテゴリー縦覧:長野まゆみ編2015年04月18日 12時35分57秒

自民党の面々はよくやるなあと思います。
右派の論陣を張るのは、健全な政治活動である限り結構なことですが、その行動面に注目すると、最近はまさに「やりたい放題」で、これは「おごっている」と言われても仕方ないんじゃないでしょうか。おごれる者は何とやら。

現今の政権は、「改革」を目指すのだと言います。
江戸の昔から「改革」といえば「「経済改革」と「文化統制」が2枚看板で、その背骨が「復古主義」だというふうに相場は決まっています。今の「改革」もまさにそんな塩梅ですね。

江戸の改革は、ただちに目に見える効果を挙げようとして、思いつきの政策を乱発した結果、かえって混乱を招き、最後には人心が離れて終息するというパターンをたどったようです。今の「改革」は、財政の緊縮を唱えず、むしろ進んで放漫なことをやっている点が、江戸の改革にはない新味ですが、いっそう刹那的な感じがして、政体の延命を図るよりは、むしろ死期を早めるのに手を貸している観があります。

それにしても、この理科趣味ブログが、こんなエセ政治評論のようなことまで書き付けねばならぬこと自体、今の世の中のおかしさを雄弁に物語るものでしょう。

   ★

…と、かように現実とは中々ムズカシイものです。

しかし、人の心の中に分け入れば、そこには人殺しも、破廉恥漢もいない、いつだって涼しい風が吹き渡り、甘い匂いの漂っている世界が確かにあります(同時にその正反対の世界もあります)。


平成の初め、1991年から92年にかけて出た、長野まゆみさんの「天球儀文庫
「月の輪船」夜のプロキオン「銀星ロケットドロップ水塔」から成る四連作です。


長野作品の定番である、二人の少年を主人公にした物語。
本作では、それぞれアビと宵里(しょうり)という名を与えられています。

二人が暮らすのは、波止場沿いの町。

(イラストは鳩山郁子さん)

物語は夏休み明けから始まり、再び夏休みが巡ってきたところで終わります。
例によって、筋というほどのものはなく、二人の会話と心理描写で物語は進みます。

その世界を彩るのは、ルネ文具店のガラスペンであり、スタアクラスタ・ドーナツであり、プロキオンの煙草であり、砂糖を溶かしたソーダ水です。


学校の中庭で開かれる野外映画会、流星群の夜、銀星(ルナ)ロケットの打ち上げ。
鳩と化す少年、地上に迷い込んだ天使、碧眼の理科教師、気のいい伯父さん…


永遠に続くかと思われた、そんな「非日常的日常」も、宵里が遠いラ・パルマ(カナリア諸島)への旅立ちを決意したことで、幕を閉じます。

宵里が去って数週間後、アビが宵里から受け取ったのは、「手紙のない便り」でした。
それは、どこかでまた「はじめて逢おう」と告げるメッセージであり、アビもあえて返事を書きません。その日が来ることを期待して、二人はそれぞれの人生を再び歩み始める…というラストは、なかなか良いと思いました。


   ★

これはひたすら甘いお菓子のような作品です。
格別深遠な文学でもなく、そこに人生の真実が活写されているわけでもありません。
(いや、真実の断片は、やはりここにも顔を出していると言うべきでしょうか?)

とはいえ―。
お菓子は別に否定されるべきものではありませんし、どちらかといえば、私はお菓子が好きです。

コメント

_ 蛍以下 ― 2015年04月19日 04時58分51秒

転校することになって友人と離れる、という程度の経験しかありませんが、このラストは多少胸に迫るものがあります。たとえ感傷であれ「真実の断片」には違いないのかなという感じです。
それにしても、女性である長野まゆみさんが「少年の心理を知悉しているらしい」ことは常々、不思議に思います。

自民に対抗できるまともな左派が戦後育ってこなかった理由が今後問われるような気がします。

_ 玉青 ― 2015年04月19日 12時01分25秒

長野まゆみ氏の作品は、この「天球儀文庫」を含め、ごく少数しか読んだことがないのですが、いずれもほぼ完全に女性の登場人物が欠落しており、最初は面食らいました。
こういう場合、世間はすぐに「作者は自らの女性性の受け入れを拒んでいる」と深読みしがちで、たしかにそういう面がないとも言い切れませんが、でも得てして男性(少年)の方が女性(少女)よりも心組みが単純なので、キャラクターとして動かしやすいし、作品世界をシンプルで純なものにするには、その方が向いている…という実際的な理由もあったかもしれません。
(少年をめぐる話題については、ちょっと気づいたことがあるので、この後また記事にする予定です。)

   +

ときに、日本では左派の退潮が著しいですね。そしてマスコミの腰の引け具合。本当にしっかりしておくれ…と思います。とは言え、たとえば伝統的に左派の強いフランスでも、最近はナショナリズムと排外主義が強まっているらしいので、この頃とみに感じる息苦しさは、日本一国に限らず、汎世界なもののようでもあります。(話の正確さを期すと、政治的左右(保革)の軸と、リベラル-強権主義の軸は独立しており、私が問題にしているのは主に後者であることを急いで付け加えねばなりません。)

ともあれ、これもひとつの時代の変化であり、自分が歴史を生きている実感が持てることは、それ自体興味深いとも言えますが、それにしても息苦しいことです。

_ S.U ― 2015年04月19日 16時43分10秒

私の「長野まゆみ氏読書」は、『天体議会』の途中までと『あのころのデパート』の2編(1編半?)にほぼ限られて、残りは挫折しました。『あのころのデパート』を見る限り普通の記憶の良い女性の感覚のもので、さくらももこ氏のエッセイと大差ないように感じました。もちろん、これだけの読書だけから長野氏像を語る資格はありませんが、女性らしい博物趣味をベースにした人ではないかと思います。「デパート」はいろんな意味で女性的な博物学ですよね。(でも、『あのころのデパート』はあまりモノ趣味に走った作品ではありませんので、そういう期待の方にはお勧めしません)。以上、おおむね挫折した者のいうことですから、確信があるわけではありません。

 政治向きの話ですが、難しい世の中になりましたね。現代のような政策に行き詰まった時代になると、確固とした政治思想を持たない政治家は、票のためには新古典主義か民族主義に頼るしかなく、天下を取ってしまった後は権力保持だけが目標になってしまうことは過去の歴史からほぼ100%明らかだと思いますので、現状では仕方がないように思います。民族主義が結構でももはや富国強兵や対外戦争に頼るわけにはいかないので、政治家の改革に期待する国民が間違っているといういうべきで、こちらはかなり確信を持っています。
 逆にいうと、左右の思想なり宗教なり何らかの伝統あるイデオロギーを持つ政党のみを信用するか、あるいは、リベラルな勢力を小口に渡りつないでいくかどちらかだと思います。後者がよりマシにしても、選挙制度が悪いためそれが実現できていないというのが現在の状況なので、国民が訴えるべきはまずは選挙制度の変更というのが私の持論です。

_ 玉青 ― 2015年04月20日 20時08分58秒

長野まゆみさんは、インタビューとかを拝見すると、とても繊細な女性らしい方ですね。
長野さんについては、私もS.Uさんに劣らず、何もものを言う資格がなくて、いささか思うのは上のコメントに記したことぐらいです。

ときに選挙制度改革は、たしかに最も現実的な処方箋かもしれませんね。
選挙区が小分けされると、政治家も小粒になるのは、いきおい「地元意識」が強くなるからでしょうが、何と言っても国政選挙なのですから、ちまちま地方の権益を代表するような人ばかりになるのは困ります。

_ S.U ― 2015年04月22日 21時57分34秒

>何と言っても国政選挙なのですから、ちまちま地方の権益を代表するような
 そうですね。小選挙区は、ほぼ半数の得票を得ないと当選できないのが問題です。すべての住民の暮らしのために行政を行う市区町村長ならそれでいいですが、衆知を結集して国の大方針をあたる国会議員が同様のレベルでは大問題です。

 さらに、得票数と議席数が比例しない問題が大きく、先の総選挙では、得票率は自民が40%自民以外が60%だったのに議席数は逆に自民が60%自民以外が40%になりました(小選挙区と比例区の合算で)。これは野球に喩えれば、巨人対阪神の試合で4-6で阪神のほうが点数が多いのに、試合結果は6-4で巨人の勝ちになるようなもので、これだったら阪神ファンは怒りまくるでしょうし、巨人ファンでも大半はこんなフェアでない制度では試合が面白くなくなる、と言うことでしょう。
 ところが、国会議員選挙となると、これを問題にする人はいない、自民党ファンも反自民の人もついぞ怒らない、本当に不思議なことだと思います。

_ 玉青 ― 2015年04月22日 22時26分50秒

おっと、こちらにもコメントをいただき、ありがとうございます。

一票の格差の問題と、「死に票」の問題は根が深いですね。
選挙区制の問題はもちろん、納税額によって選挙権に差が生じないのはなぜか、国連の議決システムを支える哲学とは何か、真の公平とはそもそも何なのか…何となく白熱教室っぽい話題ですが、こういうのを学校でも日ごろからぜひ活発に討議してほしいです。

(余談ですが、クライマックスシリーズというのも、ちょっと微妙な感じがしています。)

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