天文と気象(1)…保育社版・『気象天文図鑑』 ― 2010年03月18日 21時23分03秒
雲の話を書いていて、ちょっと天文のことがお留守になっている感じもありますが、しかし少し前まで、「天文」といえば「気象」、「気象」といえば「天文」と、赤穂浪士の合言葉のように、両者が人々の頭の中で緊密に結びついていたのも確かです。
休刊中の老舗天文誌 『月刊天文』(地人書館)が、現在の誌名に変更になったのは意外と新しくて1984年。それまでは『天文と気象』という誌名で、さらに遡れば戦前の『天文と気候』誌に行き着きます。
■地人書館公式サイト:会社概要
http://www.chijinshokan.co.jp/company.htm
また最近では「惑星気象学」という概念が成立しつつあるらしく、その体系に位置づければ、地球の気象学はその一分科に過ぎない…と見ることも十分に理がありそうです。まあ、昔の大人や子どもは、素朴に「空を見上げる学問」ということで両者をひとくくりにしていたのでしょうが…。
そんな天文学と気象学の蜜月ぶりは、児童書にも反映していて、手元にある天文分野の学習図鑑コレクション(と言っても、わずか4冊ですが)を見ると、すべてタイトルが「気象」と対になっています。
例によって昭和懐古モードになってしまい何ですが、「ちょっと昔の理科少年の頭の中」を覗くつもりで、それらの図鑑をひも解いてみようと思います。
★
まず最初は昭和26年に出た、『気象天文図鑑』。
■気象天文図鑑(保育社の学習図鑑8)
理科教育委員会(編)、保育社、昭和26年発行(昭和33年、第23刷)
短期間でものすごく刷られた図鑑です。
当時はこういう本が渇望されていたのでしょう。
内容は前半が「気象篇」、後半が「天文篇」と分かれています。
表紙デザインは天文がメインになっていますが、そのモチーフが古風な星座絵というのが一寸目を引きます。(あと数年もすると、「宇宙=ロケット」のイメージが普遍化してきますが、この頃はまだ“星空浪漫”が幅を利かせていたのでしょうか。)
この図鑑、そういう目で見ると、かなり記述が古めかしいです。
プラネタリウムには「天象儀」と添え書きがあって、「日本には今大阪市の電気科学館に1台あるだけです」と書かれています。
また火星の項には、
「火星の表面は、赤味のあるミカン色で、黒味がかった緑色のもようが見えます。ミカン色は沙漠で、緑色は植物の生えているところです。」
「表面のすじは、運河で水をひくためにほったものだといわれ〔…〕しかし、いろいろのしょうこで、火星には動物はいないだろうといわれています。」
「火星には空気が少なく、重力も小さいので、火星人はからだが細長くて、軽く肺が大きく、地球より文化が進んでいるだろうといわれています。」
…とあって、一体どっちなんだ?と思いますが、書き手もあまり自信がなかったのかもしれません。それにしても、これを読んだ子供たちは、一層わけが分からず、「火星とは何と不思議な星だろう」と思ったことでしょう。
(この項つづく)
休刊中の老舗天文誌 『月刊天文』(地人書館)が、現在の誌名に変更になったのは意外と新しくて1984年。それまでは『天文と気象』という誌名で、さらに遡れば戦前の『天文と気候』誌に行き着きます。
■地人書館公式サイト:会社概要
http://www.chijinshokan.co.jp/company.htm
また最近では「惑星気象学」という概念が成立しつつあるらしく、その体系に位置づければ、地球の気象学はその一分科に過ぎない…と見ることも十分に理がありそうです。まあ、昔の大人や子どもは、素朴に「空を見上げる学問」ということで両者をひとくくりにしていたのでしょうが…。
そんな天文学と気象学の蜜月ぶりは、児童書にも反映していて、手元にある天文分野の学習図鑑コレクション(と言っても、わずか4冊ですが)を見ると、すべてタイトルが「気象」と対になっています。
例によって昭和懐古モードになってしまい何ですが、「ちょっと昔の理科少年の頭の中」を覗くつもりで、それらの図鑑をひも解いてみようと思います。
★
まず最初は昭和26年に出た、『気象天文図鑑』。
■気象天文図鑑(保育社の学習図鑑8)
理科教育委員会(編)、保育社、昭和26年発行(昭和33年、第23刷)
短期間でものすごく刷られた図鑑です。
当時はこういう本が渇望されていたのでしょう。
内容は前半が「気象篇」、後半が「天文篇」と分かれています。
表紙デザインは天文がメインになっていますが、そのモチーフが古風な星座絵というのが一寸目を引きます。(あと数年もすると、「宇宙=ロケット」のイメージが普遍化してきますが、この頃はまだ“星空浪漫”が幅を利かせていたのでしょうか。)
この図鑑、そういう目で見ると、かなり記述が古めかしいです。
プラネタリウムには「天象儀」と添え書きがあって、「日本には今大阪市の電気科学館に1台あるだけです」と書かれています。
また火星の項には、
「火星の表面は、赤味のあるミカン色で、黒味がかった緑色のもようが見えます。ミカン色は沙漠で、緑色は植物の生えているところです。」
「表面のすじは、運河で水をひくためにほったものだといわれ〔…〕しかし、いろいろのしょうこで、火星には動物はいないだろうといわれています。」
「火星には空気が少なく、重力も小さいので、火星人はからだが細長くて、軽く肺が大きく、地球より文化が進んでいるだろうといわれています。」
…とあって、一体どっちなんだ?と思いますが、書き手もあまり自信がなかったのかもしれません。それにしても、これを読んだ子供たちは、一層わけが分からず、「火星とは何と不思議な星だろう」と思ったことでしょう。
(この項つづく)
コメント
_ 日本文化昆虫学研究所 ― 2010年03月23日 21時40分29秒
_ 玉青 ― 2010年03月24日 21時12分57秒
国会図書館の蔵書目録を見ると、保育社のこのシリーズには、「学習昆虫図鑑」というのが入っているようです(昭和26年発行)。46ページという薄いもので、著者はこれまた理科教育研究委員会という謎の集団。
今、ぼんやりと考えているのですが、図鑑史の上からいうと、この手の、シリーズ物の学習図鑑は、正統派の図鑑とはちょっとルーツが違うんじゃないかという気がします。
たとえば昆虫図鑑。もちろん戦前から昆虫図鑑はあるわけですが、そうした単体で出版された昆虫図鑑のルーツは、文字通り<昆虫学>であるのに対して、いわゆる学習図鑑のルーツは<理科教育学>にあり、戦前から存在した「図説理科」的な冊子が徐々に肥大化し、複数の巻に分裂したものという性格を持つのではないか…と推測しています。
このことは、いずれ記事本編でも書いてみたいと思います。
今、ぼんやりと考えているのですが、図鑑史の上からいうと、この手の、シリーズ物の学習図鑑は、正統派の図鑑とはちょっとルーツが違うんじゃないかという気がします。
たとえば昆虫図鑑。もちろん戦前から昆虫図鑑はあるわけですが、そうした単体で出版された昆虫図鑑のルーツは、文字通り<昆虫学>であるのに対して、いわゆる学習図鑑のルーツは<理科教育学>にあり、戦前から存在した「図説理科」的な冊子が徐々に肥大化し、複数の巻に分裂したものという性格を持つのではないか…と推測しています。
このことは、いずれ記事本編でも書いてみたいと思います。
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このくらいの時代(昭和20年代)には,保育社からすでに気象天文の児童向け図鑑が出ていたのですね.このシリーズで,昆虫図鑑はあるのでしょうか?もしあるのであれば,その時代の昆虫図鑑がどんなものか一度見てみたいです.一体どんな種類の昆虫を掲載しているのかという点に興味があります.
ちなみに,現在は保育社の原色日本甲虫図鑑(I卷〜IV卷:初版1984年)を愛用しています.ここまで専門的な図鑑を使っても,しばしば甲虫の仲間を種まで同定することが困難だったりしますが(日本に生息するすべての種が掲載されていないため / 甲虫の分類学がまだ発展途上であるため),それでもおおざっぱに何の仲間かを調べるのかには使えますし,きれいな図版と種の説明をみていると何だかわくわくしてきます.
失礼しました.