X線管、細見 ― 2016年01月11日 09時29分19秒
(昨日のつづき)
昨日のX線管にぐっと寄ってみます。
さらに角度を変えて、上から覗き込むと、こんな感じです。
理解の便のため、昨日紹介した島津の『理化学器械使用法』に載っていた模式図を引用しておきます。
手元のX線管とは、若干「角」の長さが違いますが、基本は一緒です。
まず、長い角の先の電極「A」を電源のマイナス側につなぎ、次いで反対の短い角「C」をプラス側につなぎます。すると、マイナス(陰極)からプラス(陽極)に向けて電子の流れが生じ、それが途中45度の角度に配置された金属板にぶつかって、エネルギーの一部がX線の形で外に飛び出してくる…という仕組みです。
では、中間にあって斜めに突き出している「B」の名称は何ぞやというと、本文中の説明には、
「エッキス線を得るには、第一図の如きクルックス管を用ふ。Aは陰極にして、Bは陽極なり。陰極の表面より射出する陰極線は、其焦点に設けたる対陰極Cに衝突してエッキス線を生じ、硝子壁を通じて発散す。」 (引用にあたり句読点を補いました)
…とあって、Bは「陽極」だというのですが、電子線の焦点にあるという以上、(Cではなく)Bこそ「対陰極(anticathode)」と呼ばれるもので、たぶん図中のアルファベットの付け方が間違っているのでしょう(どちらも電源のプラスにつながれているので、手っ取り早く言えば、両方とも「陽極」には違いないでしょうが)。
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念のため、別の資料も見ておきます。
以下は、永平幸雄・川合葉子(編著)『近代日本と物理実験機器』(京都大学出版会、2001)からの引用です(改行は引用者)。
以下は、永平幸雄・川合葉子(編著)『近代日本と物理実験機器』(京都大学出版会、2001)からの引用です(改行は引用者)。
「X線の発明後、直ちにその医学的応用の重要性が認められ、より強力で安定的なX線を発生する努力が続けられた。
まず電子線(陰極線)に対して表面が約45度傾く金属から強いX線が発生することが分かり、X線管の陽極と陰極の間に表面が白金(後にタングステン)の対陰極が挿入された。対陰極は陽極と繋がれたが、後に両者は一体となって陽極が対陰極の形をとることになった。
また鮮明なX線像を得るには対陰極に照射する電子線を集中させてX線源を小さくする必要がある。そのために陰極表面は放物面とした。このX線管は希薄残留気体の放電によるのでガス入り管(冷陰極管)と呼ばれる。」 (p.280)
まず電子線(陰極線)に対して表面が約45度傾く金属から強いX線が発生することが分かり、X線管の陽極と陰極の間に表面が白金(後にタングステン)の対陰極が挿入された。対陰極は陽極と繋がれたが、後に両者は一体となって陽極が対陰極の形をとることになった。
また鮮明なX線像を得るには対陰極に照射する電子線を集中させてX線源を小さくする必要がある。そのために陰極表面は放物面とした。このX線管は希薄残留気体の放電によるのでガス入り管(冷陰極管)と呼ばれる。」 (p.280)
この説明に従えば、やっぱり途中から斜めに突き出しているBは「対陰極」で、陰極の正反対の位置にあるCが「陽極」のようです(両者は後に一体化したので、逆にいうと、対陰極があるのは、X線管としては古いタイプと分かります)。
また、陰極の形状が凹面になっている理由も、これで明快に分かりました。
また、陰極の形状が凹面になっている理由も、これで明快に分かりました。
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とはいえ、英語版 Wikipedia の「X線管」の項を見たら、斜めに突き出しているのは「対陰極」ではなく、やっぱり「陽極」で、電極の配列は「陰極-陽極-対陰極」の順になっているのが一般的だ…という趣旨の記述があって、もういっぺん話がひっくり返ります。
何だか曖昧模糊としていますが、たぶんX線管の製品化にあたっては、最初いろいろな試行錯誤があり、人によって電極の呼び方に差があったせいではないでしょうか。
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なお、上記Wikipediaの記事には、次のような図が載っています。
(ウィキメディアコモンズより)
キャプションには、「1900年代初頭のクルックスX線管。右側は陰極、中央は陽極(左側の放熱板に接続されている)。図の10時の方向にある電極は対陰極である。上部にある装置はガスの圧力を調整する「調節器(softener)」である」…とあります。
「陽極」と「対陰極」の異同については改めて繰り返しませんが、ここに出てくる「調節器」とは何かをメモしておきます。この名は、昨日登場した島津製作所の古いカタログにも出ていました。
この部位は、手元のX線管(書き洩らしましたが、これはイギリスの人から買いました。メーカー名は不明です)にはないのですが、これがどういう仕組みで、どんな働きをしていたかについて、前記『近代日本と物理実験機器』には、こんな説明がありました。
「放電とともに真空度が上がり放電し難くなってX線の強度が落ちるが他方ではX線の硬度〔引用者注:物質を透過する度合いのこと〕が増す。そこでX線の強度と硬度を一定に保つために、X線管内の気圧を一定に保つ必要が生じ、そのための調節器が付けられた。封入した雲母等を加熱して気体を放出させ管内気圧を調節したのである。」 (永平・川合上掲書、p.280)
初期のX線管は、X線を生み出すために必要な電子を、管内にわずかに残っている気体の電離によって得ていました。そのため、気体の状態変化の影響を受けて、動作が安定しないという弱点を抱えていました。この点は、後に陰極を加熱し、そこから放出される「熱電子」を用いる方式の採用によって解決されましたが(この改良型X線管を「クーリッジ管(熱陰極管)」と呼びます)、初期にあっては、この調節器によってその弱点を補っていたわけです。
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…と、知りもしないことを、さも知っているように書くものではありません。
そもそも私の場合、放射線とX線の関係や、X線の正体とは?というレベルにとどまっているので、昔の「X線遊び」に興じた人たちを笑う資格は全くありません。迂闊な話です。でも、こうしていろいろ調べたおかげで、X線のことがボンヤリ分かりました。
今さら感はありますが、一応おさらいしておきます。
この「怪光線」は、文字通り「光」、すなわち電磁波の一種です。
そして、一口に「放射線」といっても、そこにはX線やガンマ線のような電磁波の仲間(電磁放射線)と、アルファ線やベータ線のような物質粒子の流れ(粒子放射線)の2種類がある…というのは、3.11のとき耳にした記憶がありますが、忘れかけていました。
また、他の放射線が放射性物質の崩壊によって生じるのに対し、X線は電子が高速で金属にぶつかったときに生じるというように、その発生源が異なることも、今回認識を新たにしたことです。
そして、一口に「放射線」といっても、そこにはX線やガンマ線のような電磁波の仲間(電磁放射線)と、アルファ線やベータ線のような物質粒子の流れ(粒子放射線)の2種類がある…というのは、3.11のとき耳にした記憶がありますが、忘れかけていました。
また、他の放射線が放射性物質の崩壊によって生じるのに対し、X線は電子が高速で金属にぶつかったときに生じるというように、その発生源が異なることも、今回認識を新たにしたことです。
(X線管の祖先に当るクルックス管。「クルックス氏」と「氏」の字が入るのは、古風な呼び方。島津の理科教材カタログ(昭和12=1937)より)
さらに、理科室趣味の観点からいえば、愛すべき「クルックス管」とX線管は、元々同じもので、X線をより効率的に発生するよう進化したクルックス管を、特にX線管と呼んだという歴史的経過や、この初期のX線管(=クルックスX線管)が、1930年代まで教育現場で使われていたことも知りました。
以上を以て、今回の収穫とします。
改めてガラス球に目をやれば、電子の流れとX線の放射が、今や目に浮かぶようです。
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