「見せる」理科室(その2)2010年04月29日 18時14分48秒

「見せる」理科室写真を撮りたい!
そう考える先生が、北海道にも出現しました。

上は函館の柏野尋常小学校の理科教室の絵葉書(昭和3年=1928)。

ただし、こちらの先生は、この前の先生とは一寸異なる美的感覚の持ち主のようで、よく磨きこまれた机の中央に、それぞれただ1つの器具を置いています。
きっと、先生はじっくり考えた末にこれらを置いたのでしょう。
いずれも無生物を対象とした器具類である点に、この先生の嗜好がはっきり出ています。
清潔で明るい空間の中に、茶禅一味的な、静かな緊張感がみなぎっているようです。

理科室にも、そこで教える先生にも、個性のあることが窺い知れます。

なお、置かれているのは
○教卓上(向って左から)…試験管立て、三球儀、誘導起電機、手押し式排気器
○左列(奥から)…誘導コイル、輪軸(=てこと滑車の原理を学ぶ装置)?
○中央列(同)…金属線膨張試験器?、不明
○右列…不明


【付記】
上とまったく同じ絵葉書が、↓にもありました。ものすごく大きく拡大できるので、細部をご覧になりたい方はこちらをどうぞ。

■函館の絵葉書:函館市柏野尋常小学校 理科教室
 http://archives.c.fun.ac.jp/postcards/include/main/?action=showZoomify&zoomifyImageDirname=2913

コメント

_ S.U ― 2010年04月29日 18時43分39秒

理科室といえば丸椅子のようですが、これは古今、洋の東西を問わないのでしょうか。

_ とこ ― 2010年04月29日 20時42分51秒

理科の先生の理科室自慢、今回は一つ一つの機器が主役となるような配置で潔いですね。
小石川の驚異の部屋展は理科機器をアートのように配置するというコンセプトでしたので、理科室自慢の写真もこれと通ずるところがありそうです。

でも教卓に誘導起電機だけはお約束のようですね。
この時代の実験の花形だったのでしょう。

_ 玉青 ― 2010年04月30日 19時56分00秒

○S.Uさま

しょうもない理科室絵葉書コレクションも、こんな時には役立ちます。
手持ちの絵葉書を見る限り、日本ではほぼ全て丸椅子が使われています。
対して西洋では椅子の文化が発達しているせいか、ほとんどが背もたれのある椅子です。
今日記事にアップする予定の、フランスの理科室は珍しい例外に属します。
(日本にもやっぱり例外があって、それはまた別に記事にしようと思います。)

○とこさま

誘導起電機は理科室絵葉書への登場率がきわめて高いです。そしてほぼ常に教卓に置かれています。実際ビビビっと来て危険なせいもあったでしょうが、それ以上に、「理科室の主」的扱いを受けていた時期が長かったようです。見た目も、機能もインパクトがあったせいでしょう。まあ、多分にシンボリックな存在ですね。

_ S.U ― 2010年05月01日 06時53分51秒

>日本ではほぼ全て丸椅子が使われています。
 おそらく国から規準か指導が出ているのでしょう。丸椅子は、座ったままでも身体を動かしやすい、座りやすい、外部への振動が少ない、ぶち当たる危険が小さい、汚れてもそうじが簡単、など長所がいくらでも思いあたります。短所もあるんでしょうが、ここは西洋より日本に軍配を上げたい。

 すみません。もう一つ、調査をお願いします。丸椅子は、1本足、3本足、4本足がありますが、1本足はありますでしょうか。1本足で回転するタイプは、座ったまま回転できて便利ですが、子どもが座ったままわざと高速回転させて遊ぶ危険があります。
 
 例外の記事楽しみにしております。私は小中校職員でもなければ家具業者とも関係ないのですが、椅子の選択はなぜかとても気になります。

_ 玉青 ― 2010年05月01日 18時33分33秒

>椅子の選択はなぜかとても気になります。

なぜ?(笑)

それはともかく調査結果ですが、戦前の絵葉書を見る限り、一本足は皆無でした。

戦後に目を向けると、昭和37年発行の『理科施設・設備図説』という本に、某教育大学附属中学校の理科室の例として、金属製の一本足タイプが載っていました。これが管見の範囲では―と勿体ぶるほど探したわけでもありませんが―唯一の例です。
(まあ、子供たちが回転させて遊ぶのは120%確実ですし、好んで採用する学校は少なかったでしょうね。上の学校の生徒たちは、きっとお行儀がよかったのでしょう。なお、この椅子については「脚が鉄製で重く安定しておりコンクリート床に適する」とコメントされています。当時の校舎はほとんど木製床ですから、採用をためらったのは、床材のせいもあったかもしれません。)

ちなみの上の本の「腰掛」の項の説明には、

「○丸型・角型・上下移動式などいろいろあるが、多数の児童生徒がひんぱんに用いるので材料・構造などをよく考え、耐久性の大きいものにすることが大切である。木製の丸型が最も多く使われているがとくにこの場合、アングル・ナットなどを使用して補強するとよい。
○大きさは上面が直径25~28cmくらいで高さが35cm(小学校)、40~42cm(中学校)ぐらいが適当である。(通常腰掛の高さは下たい長を基準として、腰かけた場合に大たい部の血管を圧迫しないような設計を必要とする。)」

とありました。昭和37年当時においては、椅子の形状については、国の指針というほどのものはなくて、各校の裁量に任されていたようです。

(ふと我に返ると、なんとトリビアルな話題…)

_ S.U ― 2010年05月02日 06時51分09秒

ご調査ありがとうございました。仕事で教室の椅子選びをまかされたときには(そんなことは起こりませんが)大いに迷うでしょうから役に立つ情報だと思います。

_ L4RI_JP ― 2017年11月27日 22時57分14秒

理科室の椅子に廻転椅子を採用している例が、昭和9年に出された『學校建築參考圖集』にありましたので載せておきます。
https://c1.staticflickr.com/5/4567/38677827161_e2dca191d5_b.jpg
https://c1.staticflickr.com/5/4543/38645401132_e2b6ccdc65_b.jpg
小学校は東京市赤坂區の中之町小(後に檜町小と改称、平成4年に赤坂小・氷川小と合併して現在は赤坂小になっているそうです)。
https://c1.staticflickr.com/5/4531/38645401272_21fcafc314_b.jpg
https://c1.staticflickr.com/5/4517/38645399382_14c35ff783_b.jpg
平面図をよく見ると、教師用のみ背がついているらしいことが判ります。
https://c1.staticflickr.com/5/4565/38621813786_7d0e461fce_b.jpg
ご覧の通り廻転椅子です(但し接地部は四脚)。
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中学校は東京市立第二中(現在の都立立川高)。
https://c1.staticflickr.com/5/4573/38677827051_8f7703611a_b.jpg
https://c1.staticflickr.com/5/4521/38645400082_07e12738c5_b.jpg
こちらには椅子の図面がありませんが、恐らく前掲のと同じような背なし廻転椅子ではないかと思われます。
https://c1.staticflickr.com/5/4578/38645399782_60ffc6dee4_b.jpg
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そして大学は東京帝大。
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この本をみる限りでは、当時は大学の実験室には作業用椅子がなかったようですね。

_ 玉青 ― 2017年11月29日 07時25分32秒

お調べいただきありがとうございます。

ただ、大急ぎで付け加えると、「理科室の椅子の形状」というような些細な問題に、L4RI_JPさんの貴重な時間とエネルギーを消尽されるべきではありません。そもそもコメント欄は、このように大量の画像を挙げての説明には不向きですし(リンクをたどるのが相当大変です)、たとえ貴重な情報であっても、ネットの海に埋没してしまい、往々「労多くして…」になりがちです。

したがって、もしL4RI_JPさんが、ご自身のこととしてこの問題に関心がおありでしたら、このようなブログへのコメントという形ではなく、ぜひ、ご自分のサイトで独立した記事として書かれることをお勧めしたく思います。

丁寧なコメントを頂戴しながら、いささか礼を失した物言いとなりましたが、L4RI_JPさんの真率な思いに対して、当方も真率な思いを述べる必要を感じ、一言申し述べました。どうぞ意のあるところをお汲みとりいただければと存じます。

_ L4RI_JP ― 2017年11月29日 09時06分13秒

お忙しい中、逐一ご覧いただきありがとうございました。先般、「ぜひ他の方のコレクションと、それにまつわるお話も伺いたいと常々思っていました」とのお需めにお応えするのに、他の方法が思いつかなかったためやむなくこうしたカタチで投稿しておりましたが、ご迷惑をおかけするのは本意ではありませんのでヤメにいたします。

当方、他人様が己れの行動に対してどうお感じになるかがあんまりよくわからないもので、ダメなものはダメ、イヤなものはイヤとはっきりおっしゃってくださる方がありがたいのです。仰せのことはいちいちごもっともで、決して何か不快に感じたりしているわけではありません。その点どうぞお気兼ねなきようお願いいたします。

_ S.U ― 2017年11月29日 14時04分07秒

 丸椅子にこだわった「言い出しっぺ」として、玉青さんとL4RI_JP様にお礼を申し上げます。私としては、単に深い意味はない些細な質問でありました。ただ、日本では(おそらく合理的機能的考慮により)丸椅子が圧倒的であったこと、それから、おそらくは多くの子ども達に理科室の原風景として丸椅子の並んだ映像がたぶん潜在意識に刷り込まれているだろうという確信を強くしました。

 私はこれで満足いたしました。偉大な研究の進展は些細なところから育つものですので、いつしかどなたか篤志の方がこれを発展されることもあろうと期待しております。

_ 玉青 ― 2017年11月30日 21時16分24秒

○L4RI_JPさま

温かいお言葉をいただき、本当に嬉しく思いました。ご投稿については上のような次第としましても、同好の士として、今後も変わらずご交誼願えれば幸いに存じます。

○S.Uさま

「丸椅子問題」は、椅子オンリーに注目する限り、些細な問題と言わざるを得ないと思いますが、理科室構造論や教育思想史、あるいは学校民俗学の中に定位すれば、新たに意味を持ってくるのでしょう。そうした視角から論が発展することを私も期待したいです。

_ L4RI_JP ― 2017年11月30日 22時49分10秒

玉青様、S.U様には身に余るお気遣いをいただき恐縮しております。ご両人(ほか好事のお方二、三名ほど)にお気が向かれたときに適宜ご覧いただければ、くらいの積もりで載せただけでしたがご厄介をおかけいたしました。

今後もご投稿を興味深く拝見していく所存です。引き続きよしなにお願いいたします。

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