ウラヌスの転生 ― 2014年09月18日 20時28分09秒
(1958年に出た、ブルックボンドの紅茶カード。惑星探査機が飛ぶ前なので、この頃でも、天王星や海王星の素顔はボンヤリしていました。)
天の神、ウラヌス(Uranus)。
その名はラテン語で、ローマ神話に出てくる神様です。
ローマ神話とギリシア神話は本来別物ですが、時代とともに混交し、たとえばギリシア神話のゼウスはユピテルと、ヘラはユノーと、アテナはミネルヴァと、それぞれ同格ということになっています。
ウラヌスの場合は、名前ごとギリシア神話から移入されたので、ギリシア名も「ウラノス」とほとんど同じです。したがって、その本来の語源はラテン語ではなく、ギリシア語に求めねばなりません。で、ギリシア語のウラノス(Οὐρανός, Ouranos)が、「天空」を意味するのは当然として、さらにその大元をたどるとどうか?
英語版ウィキペディア「Uranus」の項(http://en.wikipedia.org/wiki/Uranus_(mythology))を見ていて、次のような興味深い事実を知ったので、適当訳しておきます(〔 〕内は引用者註)。
「ウラノスの語源として最も蓋然性が高いのは、ギリシア祖語の基本形 *(Ϝ)ορσανός (worsanos)に由来するとするもので〔‘*’が付いている単語は、史料上確認できないものの、言語学的にその存在が推定される語〕、これは名詞*(Ϝ)ορσό-(worso-、サンスクリット語では
varsa 「雨」)の派生語である。
関係する印欧祖語の語根は *ṷers-であり(「潤す to moisten」、「滴る to drip」の意。サンスクリット語ではvarsati 「雨を降らせる to rain」)、関連語にギリシア語の「ουρόω」がある(ラテン語では「urina〔尿〕」、英語では「urine」。以下も参照。サンスクリット語「var(水)」、アヴェスター語「var(雨)」、リトアニア語・ラトヴィア語「jura(海)」、古英語「wær(海)」、古ノルド語「ver(海)」、同「ur(霧雨)」)。したがって、ウラノスの原義は「雨を降らす者(rainmaker)」または「地を肥やす者(fertilizer)」である。」
以下、ウィキでは「屹立する」「覆う」という意味の単語に語源を求める説も並記されていますが、ともかくここまで読んで、前から気になっていたウラノスと「urine」の類似が、単なる他人の空似ではなかったと知って、「おお!」と思いました。
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小学生のころ、学校から家の前まで帰ってくると、必ず玄関脇の金木犀のところで尿意を催し、そして尿は肥料になるという手前勝手な理屈で、毎日そこでおしっこをしたため、ついにその若木は枯れてしまいました。あの迷惑な少年こそ、雨を降らし、地を肥やすウラノスの化身だったのか…。彼が長ずるに及んで「天文古玩」という駄文を草しているのも、故なしとしません。
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ウラヌスは、1781年にウィリアム・ハーシェルが発見した新惑星(天王星)の名前となり、さらにこの偉業をたたえて、1789年に発見された新元素はウラン(ウラニウム)と名付けられ、その核燃料としての用途から、鉄腕アトムの妹はウランちゃんとネーミングされました。
言葉って本当に不思議だなあと思います。
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